厚生労働省『雇用動向調査』によると、介護・看護を理由に離職した人は年間7万~10万人程度で推移しています。高齢化が進むなか、家族が仕事を辞めて介護を担うケースは珍しくありません。しかし、介護離職は収入を失うだけではなく、介護する側の心までも追い詰めることがあります。そんな現実に直面した家族の事例を通して、その実態をみていきます。
お前なんか産まなきゃよかった…「認知症・82歳母」の暴言に「55歳息子」の心が折れた日、介護離職への後悔

仕事を辞めた理由

「母を施設へ入れるなんて考えられませんでした」

 

そう振り返る田中健一さん(55歳・仮名)。関東地方の中堅メーカーで営業職として働き、年収は640万円ほど。父を亡くしたあと、母・和子さん(82歳・仮名)の認知症が急速に進みました。

 

最初は物忘れ程度。冷蔵庫に同じ食材が並ぶ。ガスの火を消し忘れる。病院の予約日を間違える。――健一さんは仕事の合間に実家に通いましたが、限界はすぐに訪れました。介護サービスを利用しても、和子さんはヘルパーを家に入れないことがしばしば。

 

「知らない人に触られたくない」

 

そう言って玄関で追い返してしまうこともありました。会社では昇進の話もありましたが、介護負担が増えるなか、応じることはできませんでした。結局、健一さんは退職届を提出します。

 

「会社はいくらでも代わりがいる。でも母の息子は私しかいません」

 

そう考えた末の決断でした。退職後の収入はゼロになりました。母の年金は月約14万8,000円。そこから固定資産税の積立、水道光熱費、介護保険サービスの自己負担分、通院費などを支払うと、和子さんの生活費だけで消えてしまいます。

 

健一さんは、毎月自分の貯蓄を取り崩し始めました。その額、月5万円ほど。退職金約680万円は少しずつ減っていきました。

 

厚生労働省『令和6年雇用動向調査』によると、家族の「介護・看護」を理由に離職した人は年間約9万3,000人。介護離職の年代別のピーク層は、男性が45〜49歳、女性が55〜59歳となっており、働き盛りの世代が直面しています。