医療現場の人手不足は解消するが…クリニック経営の心強い味方「AIエージェント」のメリット・デメリット【開業医の実体験】

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医療現場の人手不足は解消するが…クリニック経営の心強い味方「AIエージェント」のメリット・デメリット【開業医の実体験】
(※画像はイメージです/PIXTA)

日本の医療現場はいま、かつてない転換期を迎えています。「医師の働き方改革」の完全施行から2年が経過したものの、現場のタスクシフト・効率化は依然として急務であり、対応に追われている院長も多いことでしょう。そんななか、医療の現場で注目度が高まっているのが「AIエージェント」です。今回は、実際に「AIエージェント」がどのように活用されているのか、開業医の武井智昭氏が自身の経験をもとに解説します。

AIエージェントの医療現場導入背景

「先生、もう限界です……」

 

自院の事務長からそう切り出されたとき、筆者は返答に窮しました。

 

現在、多くのクリニックが圧倒的なマンパワー不足と採用難に直面しています。少子高齢化による労働人口の減少、介護・子育てなどの負担増に加え、他業種における処遇改善のレベルが医療現場では追いついていません。

 

特に医療事務スタッフの採用は、かつてないほど困難な状況にあり、結果として管理職である院長自身に重い業務負荷がのしかかっています。

 

診察室で患者さんと向き合っている時間の背後には、膨大な電子カルテの入力作業や紹介状(診療情報提供書)・介護保険医師意見書・アレルギー疾患管理表などの書類作成など、息つく間もなく業務が山積みです。

 

「マンパワーを増やせばよい」という昔ながらの手法は、採用難・人件費高騰の現代では通用しなくなりました。

 

「このままでは、患者さんの目を見て話す時間すら削られてしまう……」

 

こうしたなか浮上したのが、「AI」の導入です。当初、筆者は「テクノロジーに患者さんの身体や心は救えるのか」と懐疑的でした。しかし、明らかに疲弊している現場を目の当たりにし、AIエージェントをチームに迎え入れるための検討をはじめました。

予約対応、問診…医療現場におけるAIエージェント活用実態

とはいえ、なんの知識もなくいきなり導入しても、かえって現場が混乱してしまいます。どんなメリット・デメリットがあるのかを直に確認したいという思いから、筆者は知人のクリニック2件を見学する機会を得ました。

 

1件は小児科メインのクリニック(以下、A小児科クリニック)、もう1件は内科メインのクリニック(以下、B内科クリニック)です。両院とも、AIエージェントを複数の業務領域に導入しており、その実態は想像以上でした。

 

1.電話・予約対応

まず伺ったA小児科クリニックでは、従来スタッフがすべて対応していた電話予約について、AIが一次対応するシステムを導入していました。予約の変更・キャンセルや、一般的な問い合わせの一次対応は、すべてAIが対応してくれるというのです。

 

一方、3歳未満の予防接種スケジュール相談や乳幼児健診、管理栄養士の予約などの複雑な対応を求められるものは、専門知識を要するため引き続きスタッフが対応する仕組みになっていました。

 

この「住み分け」により、スタッフは患者に向き合うという本来の業務に集中できるようになったということでした。

 

A小児科クリニックでは、インフルエンザ流行期の1日あたりの受電件数が約120件に上ることもあったといいます。しかし、そのうち8割以上がキャンセル・変更・発熱外来の受診可否確認といったルーティン対応であり、「AIが対応することでスタッフの電話業務時間が約70%削減された」と教えてくれました。

 

2.AI問診・カルテ入力支援

次に訪れたB内科クリニックでは、受診前にAI問診システムを活用していました。

 

患者が来院前にスマートフォンで症状を入力すると、AIが問診内容を整理し、SOAP形式(主観的情報・客観的情報・評価・計画)に沿った形で電子カルテへ自動入力する仕組みです。さらに予測される診断名や参考文献・資料、推奨される投薬案までが提案され、医師はそれをもとに診察を開始できます。

 

B内科クリニックは小児も対応しているため、小児の症例・体重・年齢をもとに薬剤の内容と推奨用量まで表示されるため、処方エラーのリスク低減にもつながっているそうです。

 

3.心療内科領域での活用

またB内科クリニックでは、心療内科外来においてもAIを活用していました。具体的には、初診前にうつ病スクリーニングスケール(PHQ-9等)の自動評価を実施し、結果を医師に提供する仕組みです。

 

さらに、問診中に希死念慮が示唆されるキーワードが検出された場合には、AIが自動的に居住区の精神科救急案内を行うなど安全設計が組み込まれており、緊急性の高いケースのトリアージとしても機能しているようでした。

効率化が可能な一方、重症例を見逃すリスクも

実際に2件のAI導入事例を確認し、筆者が感じたメリットと課題感は図表のとおりです。

 

出典:筆者作成
[図表]AI活用のメリットと課題・倫理的問題点 出典:筆者作成

AIと医師が共存する未来のクリニックへ

AIエージェントは、医療現場の人手不足・採用困難という課題に対する有効な解決策のひとつでしょう。

 

しかし、あくまで「医師の補助」であり、「医師の代替」ではありません。AIができること・できないことを正確に理解したうえで、管理者である医師が適切な業務分担を設計することが重要です。

 

ルーティン業務はAIに任せ、その分生まれた時間を「患者さんの目を見て話すこと」、「家族全体を診ること」、「地域医療の連携を深めること」、「スタッフの業務省力化」などに充てることが、今後のクリニック運営のひとつの潮流になると考えます。

 

今後は、AIによるリアルタイム診断支援の高度化や電子カルテとのさらなる連携、多職種連携へのAI活用など、医療DXはさらに加速することでしょう。すでにいくつかのオンライン診療では、AIが音声や画像を解析してリアルタイムでカルテ記載を実施するシステムも存在します。

 

こうした潮流に乗り遅れないためにも、医師自身がAIリテラシーを身につけ、積極的に活用していくことが、患者さんへの最良のサービスにつながるのではないでしょうか。

 

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著者:武井 智昭

高座渋谷つばさクリニック 院長

提供:© Medical LIVES / シャープファイナンス