「自費診療は儲かる」は本当か?
最近、「自費診療は儲かる」という話をよく聞くようになりました。それは保険診療のクリニックに比べて、自費診療のクリニックのほうが収益性も高く、医師の報酬も高いという理由からです。
実際、美容整形等の自費診療クリニックの常勤医師募集の広告を見ると、「(福岡・美容)常勤医師2,400万円~」や「(大阪・美容)常勤医師2,000万円~4,000万円」「(東京)常勤医師3,000万円+インセンティブ」などが出てきます。
こうした広告を見ると「自費診療=儲かる」というイメージを抱くのも無理はないでしょう。
厚生労働省が公表した「自費診療」の実態
厚労省が実施した令和7年の「医療経済実態調査」で、診療科別に収益状況が公表されています。そのなかで「その他の診療収益」がいわゆる自費診療が含まれる部分です。具体的には、文書料、介護報酬、事務手数料、自由診療、特別メニューの食事などとなります。
医療法人のクリニックでみると、「その他の診療収益」の割合は、全体平均で9.9%、全体平均を超す診療科は、皮膚科が35.4%、産婦人科が28.5%、小児科が17.7%でした。
産婦人科はお産や不妊治療があり、小児科はワクチンがあるため割合が高いことはわかります。しかし、皮膚科の3分の1の収入が「その他の診療収益」であることは驚くべき数字です。この点も「自費診療は儲かる」という意見が出てくる根拠になっているのかもしれません。
開業医が知らない自費診療に潜むリスク
自費診療のなかでも、自由診療は美容医療やED治療、AGA治療、眼科における多焦点レンズ、ICL、レーシック、不妊治療、人間ドックなどが挙げられます。これらは医療保険が適用されず、原則全額が患者の自己負担となります。
自由診療は、公的保険制度では認められていない先進的な技術・医薬品を使用することが可能です。一方、厚生労働省が承認していない治療は、安全性や効果の評価が十分でない場合があります。たとえば、海外で認められている治療でも、日本では未承認の治療は保険適用外です。
そのため、自由診療と保険診療の違いを患者に詳しく・正確に説明しなければなりません。金銭面で自己負担が増えること、治療に関するリスクがあることをしっかりと伝えなければ、後々トラブルに発展するリスクが高まります。
クリニック経営に悪影響を与えるトラブルリスク
自費診療のリスクとしては、患者との関係悪化による、悪質な口コミやクレーム、返金トラブルなどが挙げられるでしょう。場合によっては訴訟にまで発展することもあり得ます。患者が「高いお金を払っている」という実感が強い分、通常の保険診療と比べてこれらのトラブルに発展しやすいようです。
また、監査当局との関係に起因するものとしては、個別指導など監査において、保険診療との線引きについて指摘され、返還を求められることもリスクです。さらに、競合院との関係などにより価格競争に巻き込まれたり、景気の影響で医薬品・材料などが高騰したりするリスクにも注意しなければなりません。
自費診療で「成功する医師」と「失敗する医師」
自費診療に取り組む医師を取材すると、Aクリニック(内科)では、SNS(YouTube)などでファンを作り、そこから自費診療につなげているようでした。具体的には、ダイエット外来を自費で行う場合、ダイエット専門の医師としてのブランディングを行い、「この先生なら信用できる」という信頼を勝ち得て患者が増えるという構図です。
そのため、入り口であるYouTubeの撮影にかなりの労力を割いており、毎週のようにSNSマーケティング専門のメンバーと撮影会議を開き、どんな内容が患者に響くか、今週のテーマは何かといったことを話し合い、撮影に挑んでいるそうです。
また、せっかくファンができても、実際の受診につなげて、さらにリピートしてもらうためには、患者動線にも細やかな配慮をしているということでした。オンライン診療やWeb問診、予約システムなどをしっかり組み合わせて、最短距離で患者がたどり着けるような工夫がされています。
また、Bクリニック(皮膚科)では、保険診療でベースを作り、保険診療の既存患者に自由診療を提案するという流れを構築していました。
Bクリニック院長「長年、保険診療を続けていると、患者のさまざまなニーズを発見します。そこで気づいたのが、『すべて自己負担(自費診療)であっても新しい治療を受けてみたい』という患者が一定数いるということでした。ただし、これにはまず保険診療で信頼を得る必要があります。患者から信頼されてはじめて、スムーズな提案ができるのです」
AB両クリニックとも、アプローチは異なるものの「患者の信頼獲得」に対する注力が印象的でした。
ただ、特にSNSを活用したブランディングには細心の注意を払う必要があります。というのも、自費診療を行う医師が失敗する要因として、“目立ちすぎた”結果、政府や医師会、医局などから問題視されるケースがあるからです。
厚生労働省や地方厚生局などの行政当局は、毎月のレセプト審査や個別指導、新規開業などを精緻に調べて、少しでもおかしな点があればその点を追及してきます。この点、自費診療の比率が高い医師は、個別指導が厳しいと言われているため注意が必要です。
自費診療であればなにをしていいわけでは当然ありません。まだ保険診療で認められていない治療を、患者と同意のもと、先進的な治療として提供しているクリニックには、医療サービス提供者としての「モラル」が求められているのです。
安易な自費診療の導入は厳禁
高齢化に拍車がかかる日本において、政府は社会保障制度を維持していくため、医療費の増加を抑えることは明白です。
2026年度の診療報酬改定では3%を超える改定率となりましたが、その大半は物価高と人件費高に充てられることになっています。よって、実際にはほとんど上がらないどころか、収益としてはマイナスになる可能性もあるのです。そのような状況下で、「保険診療が厳しいから自費診療に取り組む」という考えは自然な流れでしょう。
しかし、自費診療に安易に取り組むことのリスクを軽視してはいけません。美容医療など自由診療の世界は、保険診療に比べて激しい自由競争が展開されます。競争が激化すれば、患者の奪い合いになり、そのために露出を増やし、価格を下げ、競争を勝ち抜かなければなりません。ファンを獲得し続けるためのたゆまぬ努力(日々改善)が必要なのです。
また、露出が増え患者が増えれば、今度は「目立つ行動」として、当局に睨まれるという事態もあり得ます。さらに、患者は口コミで厳しい評価を下します。「説明をしっかりしたのに」と言い訳をしても、患者はそんなことはお構いなしに好き勝手書き込むことでしょう。自費診療に潜むリスクをしっかりと考えて取り組む必要があるのです。
最後に、「自費診療は保険診療の延長にある」ことを忘れてはなりません。保険診療は過去のさまざまなエビデンスに基づき、保険での診療が認められた経緯があります。一方、自費診療は国内でのエビデンスが不足しているため、保険の適用が認められていないという前提を、クリニック全体できちんと認識しておく必要があるでしょう。
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著者:大西 大輔
MICTコンサルティング株式会社 代表取締役
一般社団法人リンクア 理事
知的探求塾 アドバイザー
穴吹国際みらい専門学校 非常勤講師
提供:© Medical LIVES / シャープファイナンス
