事業承継を考えるタイミングとは
「自分はまだ事業承継に向き合わなくてもいい」、そう思っている人も多いはずです。しかし、以下のケースに1つでも当てはまる場合は準備を開始すべきタイミングといえます。
◆「事業承継」を本格的に検討すべきケース
【 】年齢:60代になった。体力や健康に不安を感じるようになってきた。
【 】売上:1日あたりの平均来院患者数が安定推移しており、地域インフラとして機能している。一方で、これ以上の成長に限界を感じている。
【 】資産:医療機器が更新時期を迎えている。建物や内装の老朽化が進んでおり、10年以内に大規模改修が必要など、将来の重い投資負担が予想される。
【 】経営:借入金の返済が苦しい。資金繰りに懸念を感じている。
【 】個人:経営の煩わしさから解放されたい。セカンドライフを過ごす時間が欲しい。
上記は、筆者が事業承継の相談を受けるなかで、クリニック経営者から実際によく聞く「検討のきっかけ」です。自院のさらなる成長を見据えた前向きな理由もあれば、資金繰りに起因するような後ろ向きな理由から検討が始まるケースもあります。また、経営者自身のセカンドライフが理由になることも少なくありません。
いずれにせよ、ひとつでも気になる項目があれば、準備を始めるべきでしょう。
自院の「健全経営」チェックリスト
現状を客観視するために、以下の3つの視点からセルフチェックを行ってください(〇か✕か)。
◆経営・財務の健全性
【 】直近3期分の決算書において、売上が横這い、もしくは増加している。
【 】診療圏内に自院と同じ標榜科目の「若い院長」の競合先が増えていない。
【 】借入金の残高を把握しており、完済までの道筋が見えている。
【 】収益状況は黒字を維持できている。
【 】毎月の収益管理が正確に行えている。
【 】薬品代や委託費などの変動費が適正。
◆スタッフ・組織の状況
【 】先生が不在でも問題がないオペレーションが構築されている。
【 】先生の右腕(キーマン)的な人物がおり、継続勤務が可能。
【 】勤続年数の長いベテランスタッフとの役割分担が固定化され、業務改善の妨げになっていない。
【 】退職金規程が整備されており、その積立は十分。
【 】未払残業代等の労務トラブルの懸念がない。
◆資産・投資の現状
【 】電子カルテを導入している。
【 】WEB予約など、HPが常に更新されている。
【 】建物や土地の所有関係(自前か賃貸か)が明確。
【 】医療機器や建物改修など、将来予想される投資負担に対して積立は十分。
上記15項目のチェックリストについて、どの程度〇がついたでしょうか。〇が多いクリニックは比較的健全な経営がなされており、言い換えれば承継者にとってリスクが小さいということを意味します。〇がついた数に応じて、検討すべき事業承継のルートは変わってきます。
10以上のチェック項目に〇…第三者承継(M&A)を目指す【Aルート】
「10項目以上に〇がついたものの、明確な後継者がいない」場合は「Aルート」です。健全な経営がなされており、高い譲渡価格を目指せる可能性があります。
一方、後継者不在のまま時間が経つと、これまで築いてきた医療資産(地域医療インフラや患者からの信頼)が消失してしまうリスクがあります。そのため、早期に第三者承継(M&A)を検討すべき状況といえるでしょう。
〇がついた項目が9項目以下…企業価値を高めつつ、将来の選択肢を広げる【Bルート】
「〇が9項目以下で、明確な後継者もいない」場合は「Bルート」です。改善すべき経営課題が多く、まずは課題の解消に取り組む必要があります。たとえば収益管理体制の整備など、各課題の改善には一定の時間がかかるでしょう。顧問税理士等の専門家と協力しながら、計画的に改善を進めていくことが重要です。
いまのうちに改善に着手して、自院の企業価値向上を狙うことで、納得のいく出口戦略を練ることができます。
〇が5項目以下…場合によっては計画的閉院も視野に入れる【Cルート】
「〇が5項目以下で、明確な後継者もいない」場合は「Cルート」です。第三者承継を狙うには厳しい状況といえます。
厳しいかもしれませんが、閉院コスト(建物の原状回復費、スタッフへの解雇予告手当、カルテ保存義務など)を把握し、近隣クリニックへの患者紹介を進めるなど、数年かけて計画的に閉院準備を進めるほうが適切なケースもあります。
ただし、可能性は低くても、第三者承継の道が完全に閉ざされているわけではありません。M&Aの専門家に相談し、可能性を探りましょう。
事業承継は後ろ向きな作業ではない
事業承継とは、決して「引退」を意味する後ろ向きな作業ではありません。むしろ、「自身が築き上げてきた医療資産を、どうすれば次世代に最適化して残していけるか」という経営者としての最後の大きな仕事です。
60代は「守り」に入る年代ではなく、「出口戦略」を描き始めるべき“攻めの年代”なのです。
現状整理を進めることで、自院の客観的な立ち位置が見えてきたのではないでしょうか。まずは、「もし明日、自分が急に倒れたら、このクリニックはどうなるのか」という視点で、身の回りの整理から始めてみてください。
できることからコツコツと。その積み重ねが、先生自身はもちろん、スタッフ、そしてなによりも通い続けてくれる患者の未来を守ることにつながることでしょう。
MedicalLIVES(メディカルライブズ)のコラム一覧はこちら>>
著者:田畑 伸朗
株式会社船井総研あがたFAS
提供:© Medical LIVES / シャープファイナンス
