定年退職を機に、地方移住を決断する人は少なくありません。しかし内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、小規模な市町村に住む高齢者の多くが「公共交通や移動手段」に不安を抱えており、交通インフラが高齢期の生活の質に直結していることがわかっています。本記事では、憧れの移住生活を叶えたものの、予期せぬトラブルからわずか2年で自宅を手放すことになった60代夫婦の事例を紹介します。
「やっぱり、東京のほうがよかった」〈年金月25万円〉夫婦で定年後に地方移住も…68歳夫が夢見た「理想の老後」は2年で崩壊、67歳妻が味わった恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

露呈した地方のインフラの脆さ…「もう耐えられない」妻の決別宣言

そんな不満が蓄積していたある日。梅雨の晴れ間にマサオさんが自宅の周りを掃除している最中に、滑りやすくなっていた庭の石段に足を滑らせ、尻もちをつき腰の骨を折ってしまいます。

 

自力で歩けなくなったため、ケイコさんは慌てて救急車を呼びました。しかし、市街地から離れた山間部のため救急車が到着するまでに30分近くかかり、さらに受け入れ先の総合病院は隣の市で、車で1時間も離れた場所でした。

 

「もしこれが命にかかわる病気だったらと思うと、ゾッとしました。私は運転できないし、タクシーもすぐには来ません。この先、どちらかが重い病気になったとき、こんな不便な場所でどうやって生きていけばいいのか……」

 

この一件でケイコさんは、「こんな不安な毎日はもう耐えられない、やっぱり東京での暮らしのほうがよかった」とマサオさんに泣きながら訴えました。

 

ケイコさんの突然の言葉に、マサオさんはショックを受けたといいます。自分の憧ればかりを優先し、不便さや健康リスクから目を背けていたことに、ようやく気づいたのです。

 

夫婦の話し合いの結果、マサオさんはわずか2年で移住先の家を手放す決断を下しました。物件の売却損や引っ越し費用などで、結果的に約500万円もの老後資金を失いました。現在は、関東近郊の駅やスーパーが徒歩圏内にある家賃11万円の賃貸マンションに引っ越し、生活を立て直している最中だといいます。

 

[参考資料]

内閣府「令和7年版高齢社会白書」

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」