厚生労働省の「令和6年(2024年)人口動態統計」によると、同年の離婚件数は18万5,895組に上り、前年より増加しています。そのなかでも特筆すべきは、同居期間が「20年以上」となる夫婦の離婚が4万686組に達し、離婚全体の約2割(21.9%)を占めている点です。長年連れ添った夫婦が、子育ての終わりやライフステージの変化を機に別の道を歩む「熟年離婚」は、現代において珍しい選択ではありません。※事例の人物名はすべて仮名です。
「感謝されると思っていた…」銀婚式前日、52歳専業主婦妻が去った。午後3時のマイホーム、月収78万円・54歳夫がパジャマで呆然、カーテンは閉まったまま (※写真はイメージです/PIXTA)

銀婚式前日の淡白な別れ

二人が結婚25周年の「銀婚式」を迎える前日のこと。

 

翌日は、二人のこれまでの歩みを節目として祝う大切な日。トオルさんはミツコさんのために、彼女の好きなスイートピーをあしらった花束を内緒で予約していました。その受け取りの準備も兼ねて有給休暇を取り、自宅のリビングでくつろいでいたトオルさんの前で、ミツコさんは落ち着いた様子で、家で一番大きなボストンバッグを持って玄関へと向かいました。

 

「どこに行くんだ」と尋ねる隙もないままドアが閉まり、そのうち戻るだろうといったん放っておきました。1時間後、ミツコさんからLINEが届きます。

 

「しばらく帰りません。今後のことについては、お互い落ち着いたら連絡します」

 

トオルさんは驚いて電話を掛けるも、ミツコさんのスマホには電源が入っていないようです。理由を聞こうと、何度もLINEを送りましたが、既読にすらなりません。

 

パニックになったトオルさんは、一人暮らしを始めたばかりの長女に電話をかけ、事の顛末を伝えました。「お母さんが急に出ていってしまった。明日は銀婚式なのに、なぜなんだ」と取り乱すトオルさんに対し、長女は答えます。

 

「性格の不一致なんじゃないかな。お父さんて、いつも空回りだよね。お母さん、不満に思っていたことを何度もお父さんに言ってたよ。でも全然直んないし、それは私も見てきたし。積もり積もってもう無理だったんじゃないかな」

 

長女の口から語られたのは、トオルさんが「家族への愛情」だと信じ込んでいた行動が、実はミツコさんにとってはただのストレスでしかなかったという現実でした。

 

長女が言うには、ミツコさんはトオルさんの日ごろの配慮のなさやズレに、何度も苦言を呈していたのです。しかし、悪気のないトオルさんはそれらを受け流し、自分のスタイルを変えることはありませんでした。その様子を間近で見ていた長女にとっても、今回の結末は決して予期せぬものではなかったようです。

 

翌日の銀婚式当日の午後3時、いつもならミツコさんが夕食の買い出しや準備を始めているはずの時間。トオルさんはパジャマ姿のまま、昨日届いて水もやらず、元気がなくなったスイートピーを眺めて立ち尽くしていました。

 

「自分はこれまでの25年間、ずっと妻に感謝されていると信じて疑わなかった」

別居後に待ち受けているもの

ミツコさんにとって長女が家を出たタイミングは、長年温めてきた離婚へと動き出すタイミングだったようです。母親としての義務を果たしたという大きな区切りがついたのかもしれません。

 

しかし、不貞行為やDVといった、法律上で明確に認められるような離婚事由が双方にない場合、突然の離婚請求は相手に拒絶され、話し合いが決裂してしまうケースが少なくありません。ミツコさんは、トオルさんに正面から切り出しても納得してもらえないことを見越し、まずは「別居」という客観的な事実を作ることで、関係の清算に向けた段階を踏もうとしたと考えられます。

 

そして、この「別居」というミツコさんの決断は、トオルさんに対して精神的なショックだけでなく、今後避けては通れない現実的な「お金の問題」をも突きつけることになります。

 

一般的な実務の考え方では、たとえ別居中であっても夫婦である以上、収入の多い側がもう一方の生活費を支える「婚姻費用」の分担義務が生じる傾向にあります。月収78万円という稼ぎがあるトオルさんの場合、別居中のミツコさんの生活費として、毎月決して小さくない金額を支払い続けなければならない可能性が出てくるのです。

 

さらに、このまま将来的に離婚というステップへ進むことになれば、婚姻期間中に築き上げてきた預貯金や有価証券、マイホームなどの資産を、原則としてふたりで分け合う「財産分与」という経済的清算も予想されます。

 

浮気もギャンブルもせず、高い給与を家庭に入れ、自分なりに家族を思いやってきた。翌日の銀婚式のために小さな花束まで用意していた夫の優しさは、配偶者との目に見えない「心の対話」を怠り続けた結果、精神的にも経済的にも大きすぎる代償を伴う「別居」という形で新たな生活がスタートしました。

 

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