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いつもズレている夫
トオルさん(54歳)が妻のミツコさん(52歳)と結婚したのは、29歳のときです。間もなくして長女が誕生しましたが、長女は幼少期、身体が弱い子どもでした。頻繁に熱を出し、入院や定期的な通院を繰り返す日々のなかで、ミツコさんはそれまで勤めていた仕事を辞め、家庭に入って看病に専念せざるを得なくなります。
トオルさんは、自分なりに妻を労い、家庭に貢献しようと、さまざまな場面で「よかれと思って」の行動を重ねていたと言います。
たとえば、トオルさんがたまの休日に作る「手料理」がそうでした。普段料理をしないトオルさんですが、「たまにはミツコを休ませよう」と、かたまり肉やスパイスを買ってきては、時間をかけてカレーやパスタを振る舞いました。しかし、トオルさんが作るのは料理そのものだけで、シンクには油まみれのフライパンや使い散らかした調理器具が山積みのまま。「美味しかっただろう」と満足げに自室へ戻るトオルさんの後ろで、結局ミツコさんがキッチンの後片付けをするのが常でした。
また、ミツコさんと長女が体調を崩して寝込んでいるときにも、トオルさんの配慮にはズレがありました。「今日は夕飯を作らなくていいよ、俺が買ってくるから」と買ってきたのは、自分の好物であるとり天弁当でした。胃が受け付けないミツコさんが「ごめん、食べられない」というと、トオルさんは「せっかく買ってきてやったのに、もういいよ」と一人背を向けてとり天弁当を食べました。長女が「食べたい、食べたい」と騒ぐなか、ミツコさんが「元気になったらね」となだめていたのです。
今春、無事に大学を卒業した長女が、就職を機に都内の一人暮らしのマンションへ独立していく際にも、その傾向は表れました。ミツコさんと長女が、限られた予算と部屋の広さに合わせてコツコツと選んでいた家具や家電のリストを見て、トオルさんは「せっかくの新しい門出なんだから、もっといいものにしなさい」と、二人に相談なくワンランク上の大型テレビやおしゃれな照明を独断でネット注文し、お祝いとして贈りました。トオルさんとしては親としての精いっぱいの太っ腹なプレゼントのつもりでしたが、長女は動画派でテレビはあまり見ません。部屋の雰囲気に合わない照明を前に、ミツコさんと長女が困惑している様子には気づいていませんでした。