内閣府の「令和6年度 高齢社会対策総合調査」によると、今後の生活における経済的な不安として、「自力で生活できなくなり、転居や有料老人ホームへの入居費用がかかること」を挙げる人が43.1%、「自分や家族の医療・介護の費用がかかりすぎること」が36.6%に上っています。 親の施設入居を検討する際、限られた年金や予算の範囲内で「なるべく月額費用の安い施設」を探すのは、当然の心理といえるでしょう。 しかし、それだけで施設を決めてしまうと、将来的に予想外の代償を払うことになりかねません。※事例の人物名はすべて仮名です。
「老人ホームを3回変わることになるとは…」年金月17万円の79歳父、転居のたびに50歳娘が感じた後悔 (※写真はイメージです/PIXTA)

費用を抑えて、いまの父に合った施設へ

アズサさんが父・オウジロウさんの施設入居を決めたのは、5年前のこと。当時、父は74歳でした。オウジロウさんは軽度の脳梗塞を起こして入院し、退院時に左半身にわずかな麻痺が残りました。要支援2の認定を受け、日常生活の多くはまだ自分でこなせましたが、料理や掃除の管理が難しくなっていました。

 

入院中に病院の退院支援相談員から告げられたのは、「退院までに次の住まいを決めておいてください」という言葉でした。退院日は2週間後。アズサさんは急いで地域包括支援センターに相談しました。

 

担当者はいくつかの選択肢を説明してくれました。「要支援2の段階ではサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が使いやすいです。ただ、今後介護が必要な状態になれば、より手厚い施設への移行が必要になる場合があります。最初から介護付き有料老人ホームを選んでおくという方法もあります」。

 

アズサさんは施設の月額費用を見比べました。サ高住は月額12万円、介護付き有料老人ホームは月額22万円。オウジロウさんの年金は月17万円です。「まだ自分で動けるし、費用を抑えたい」。アズサさんはサ高住を選びました。

2回目、3回目の転居

サ高住での生活は、当初は穏やかでした。見守りと生活支援が受けられ、オウジロウさんも「ここは明るくていいな」と気に入っている様子でした。

 

しかし2年後、脳梗塞が再発。今度は以前より症状が重く、歩行に介助が必要になり、要介護2の認定を受けました。サ高住は安否確認と生活支援が中心の施設で、本格的な身体介護への対応には限界があります。施設側から「介護が必要な状態になると対応が難しくなってきます」と告げられ、別の施設への転居を余儀なくされました。

 

次に移ったのは月額16万円の住宅型有料老人ホーム。別途介護費用が月約2万円かかるため、年金との差額1万円をアズサさんが毎月補填する形で、新しい生活が始まりました。「お父さん、また引っ越しさせてごめんね」。オウジロウさんの荷物を運びながら、アズサさんはそう声をかけました。オウジロウさんは「大丈夫だよ」と言いましたが、表情は不安そうです。高齢者は住環境の変化に大きなストレスを感じやすく、認知機能への影響も指摘されています。なるべく早く慣れてくれるよう、アズサさんは週に2回面会に通いました。

 

翌年、オウジロウさんの要介護度が4に上がりました。嚥下機能の低下や夜間の対応が増え、住宅型では外部の介護サービスを別途利用する費用が加算されていきます。医療的ケアへの対応にも限界が出てきて、再び「より手厚い施設への移行を検討してほしい」と告げられました。

 

3回目の転居先は、特別養護老人ホームに空きがなく、介護付き有料老人ホームです。24時間介護スタッフが常駐し、医療連携も整っています。月額22万円。5年前に「費用が高い」と見送った施設と同じ水準でした。年金との差額5万円を毎月アズサさんが補填することに。3回の転居にかかった費用——退去手続き、新たな施設の初期費用、引っ越し代——を合計すると、50万円近くになっていました。