「年金はあてにしない」若者の自衛意識と、現実に訪れる“もしも”の危機
「老後の生活を支える柱として、公的年金をどの程度あてにしているか」
内閣府が令和5年11月に調査を実施した『生活設計と年金に関する世論調査』によると、18~29歳の若い世代では、「なるべく頼らない(24.7%)」「まったく頼らない(4.3%)」を合わせ、およそ3割(29.0%)が国をあてにしない自衛の老後設計を考えていることが分かりました。
年代が上がるにつれて年金への依存度は高まる傾向にありますが、少子高齢化が進む中、「自分の身は自分で守る」という意識が若年層ほど強くなっている裏返しと言えるでしょう。
しかし、そんな「年金懐疑派」であっても、人生の予期せぬターニングポイントで公的年金のありがたみを痛感させられる瞬間があります。
都内在住の女性(65歳)も、公的年金に人生を救われた一人でした。彼女が45歳のとき、大学時代から連れ添った2歳上の夫が47歳の若さで心臓発作により急逝。当時、長男は10歳、次男は8歳。働き盛りだった夫の突然の不在は、精神的なショックだけでなく、「これから1人で2人の子どもを大学まで出せるのか」という現実的な恐怖を突きつけました。
「夫婦ともに正社員の共働きで、手取りはそれぞれ月30万円(額面約40万円)ほどありました。医療保険には手厚く加入していたものの、死亡保障は最低限。そんな大前提が崩れるなんて、1ミリも思っていませんでした」
2馬力だった家計は一瞬にして1馬力へ。絶望の底にいた彼女を支えたのが、国の「遺族年金」制度でした。公的年金の遺族年金には、国民年金に由来し、原則、子の要件がある「遺族基礎年金」と、厚生年金に由来する「遺族厚生年金」の2階建て構造になっています。
彼女の場合、18歳未満の子どもが2人いたため、遺族基礎年金(基本額+2人分の実子加算)として年間約128万円が支給されました。さらに、夫の厚生年金加入実績をベースに計算された遺族厚生年金が年間約65万円加算され、合計で年間約193万円(月額にして約16万円)を受け取れることになりました。
厚生労働省の『賃金構造基本統計調査』を見ても、大卒女性の40代中盤の平均月収は約37万〜40万円。彼女の収入はまさに平均モデルでしたが、働きながら子育てをするシングルマザーにとって、毎月上乗せされる16万円の存在は非常に大きかったといえるでしょう。
「遺族年金が意外と手厚いといった印象を受けました。自分の給与と合わせれば、子どもたちに不自由な思いをさせずに済む。本当に救われた思いでした」
その後、長男が18歳を過ぎると遺族基礎年金の子の加算が消え、次男が高校を卒業すると基礎年金自体が全額消失しました。しかし、今度は遺族厚生年金に「中高齢寡婦加算」(年約61万円)が上乗せされ、月約10万5,000円のサポートが継続。彼女はこの給付金を原資に、息子2人を無事に大学まで卒業させることができたのです。
57歳で子育てを終えた彼女は、「夫が残してくれた年金のおかげで役割を果たせた」と安堵し、60歳の定年を機に現役を引退。穏やかな老後を待つばかりのはずでした。