高齢化が進むなか、親の資産管理を巡る問題が家族の大きな課題となっています。近年はネット通販やポイント還元サービスの普及により、「節約のつもり」が思わぬ支出につながるケースもみられます。 久しぶりに帰省した息子が直面した出来事を通して、高齢期の消費行動と家計管理の難しさを見ていきます。
 「なんだ、これっ!」半年ぶりに帰った実家のテーブルに散乱する「督促状」。〈年金月12万円・75歳母〉の貯金通帳から消えた「1,000万円」、頭を抱える45歳息子 (※写真はイメージです/PIXTA)

節約のつもりの行動だった…

和子さんにとって、買い物は贅沢ではありませんでした。むしろ節約の一環だったといいます。

 

「ポイント5倍の日を狙っていたの」

「クーポンが出るまで待って買っていたし」

「定価ではほとんど買ってないのよ」

 

本人には浪費の自覚はありません。購入履歴を確認すると、「送料無料まであと1,000円」「あと少しでポイント倍率アップ」といった理由で追加購入した記録も少なくありませんでした。

 

収納用品を買うために収納用品を買い、使い切れないサプリを追加購入し、似たような衣類をポイント還元日に注文する――。そうした行動が積み重なっていたのです。

 

総務省『家計消費状況調査』によると、2025年、65歳以上のおひとり様女性の4分の1がインターネットを利用した注文を行い、平均月3.5万円を使っています。インターネットの利用はまだ少数派とはいえ、ネット通販は高齢者にも確実に浸透しているといえるでしょう。

 

その分、トラブルも増加。『令和8年版消費者白書』によると、2025年、消費生活相談件数の33.0%が65歳以上の高齢者からのものです。相談された商品・サービスを見ていくと、健康食品や基礎化粧品が他の世代よりも多くなっています。

 

和子さんの場合、本人が納得して購入しており、浪費という意識はなかったものの、「得をしたい」という気持ちが、結果として大きな支出につながっていました。

父の死後、買い物が生活の一部になった

なぜここまで買い物が増えたのでしょうか。背景には生活環境の変化がありました。

 

父が亡くなって以降、一人で過ごす時間が増えていきました。年齢とともに友人との交流も減り、外出機会も以前ほど多くありません。そんななかで、スマートフォンを見る時間が長くなったといいます。

 

「おすすめ商品が出てくるでしょう。見ていると、つい欲しくなるのよ」

 

さらに購入後にはポイント付与の通知が届きます。その数字を見ることも楽しみの一つになっていました。

 

「今日は3,000ポイント増えた」

「今月は1万ポイント超えた」

 

そうした達成感が次の買い物につながっていたといいます。

 

一方で田中さんは、母の変化にも気づいていました。同じ話を繰り返したり、支払日を忘れたりすることが増えていたのです。後日受診した医療機関では、認知機能の低下が見られるとの指摘も受けました。

 

「買ったこと自体を忘れていた商品もありました」と田中さんは話します。

 

その後、田中さんは母と話し合い、クレジットカードを整理しました。ネット通販の利用も見直し、支出状況を一緒に確認するようにしたのです。現在は毎週電話で連絡を取り、月に一度は帰省しています。

 

和子さんが受け取っている年金は月12万円程度です。浪費していなくても、手残りはほとんどなく、預金残高も元には戻りません。それでも新たな支出は大幅に減りました。

 

「母は浪費しているつもりじゃなかった、むしろ得していると思っていた。それがやっかいでしたね」

 

田中さんが見たのは、誰にでも起こり得る「得をしたい」という気持ちの延長線上にある現実でした。