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豹変した兄の怒声
母親が亡くなったのは83歳のとき。遺言書はありませんでした。相続財産は地方都市にある実家と預貯金などを合わせて約2,500万円。実家は築45年が経過しており、兄妹ともに住む予定はありませんでした。話し合いの結果、実家を売却することになります。
売却額は約2,000万円でした。ところが、その後の遺産分割協議で問題が起きます。由美子さんは兄にこう伝えました。
「介護期間も長かったので、その分は少し考慮してほしい」
法定相続分でいえば兄妹は2分の1ずつです。しかし由美子さんとしては、長年の介護のなかで収入が減少。まったく考慮しない形に納得できませんでした。
すると兄は顔色を変えました。
「ふざけるな! なんでお前が勝手に決めるんだ!」
由美子さんは、その言葉に驚きを隠せなかったそうです。兄は続けました。
「介護したのはわかる。でも相続は相続だろう。法律どおり半分ずつでいいじゃないか」
由美子さんも反論しました。
「お兄ちゃんは月に1回も来なかったじゃない。病院も手続きも全部私だった」
しかし議論は平行線をたどります。相続では、被相続人の介護や財産維持に特別な貢献をした相続人について「寄与分」が認められる場合があります。
ただし、実際に認められるためには、通常期待される範囲を超える貢献があったことなどを示す必要があり、家族間で認識が一致するとは限りません。由美子さん兄妹も、最初は感情的な対立になりました。
「介護した人には介護した人の言い分があります。でも介護していない側には、『頼んでいない』という理屈もあるんです」
由美子さんはそう話します。その後、兄妹は専門家に相談しながら協議を続けました。介護記録や通院の付き添い状況、仕事を減らした経緯なども整理したとのことです。最終的には、預貯金の一部について由美子さんの負担を考慮する形で合意が成立しました。しかし、そこに至るまで半年近くを要しました。
さらに問題は残っていました。先祖代々の墓です。兄は遠方在住で管理が難しく、由美子さんも将来的な負担に不安を抱えていました。実家を売却しても、墓の管理という新たな課題が残ったのです。
近年、空き家問題が社会課題となっていますが、総務省の調査によると、全国の空き家数は900万戸を超え、過去最多を更新しています。特に、世帯が所有する空き家(賃貸・売却用などを除く)の取得方法をみると、「相続・贈与」が約6割(61.6%)を占めています。
さらに、こうした空き家の約7割は1980年以前に建てられた古い物件であることも分かっています。その背景には、実家などを相続したものの、活用や処分が難しく「引き継ぐ人がいない不動産」や「管理負担の重い資産」となってしまう現実があります。相続は財産を分けるだけでなく、その後の管理責任をどう分担するかも重要なテーマになっています。
由美子さんは最後にこう語りました。
「お金そのものより、『大変だったね』とか『ありがとう』とか。そんな一言があれば違ったかもしれません」