親の介護を担った家族と、そうでなかった家族との間で生じる不公平感は、相続の場面で表面化しやすい問題です。特に実家の処分や墓の管理を巡っては、長年の負担と法的な相続割合との間に大きな隔たりが生まれることもあります。母の介護を一人で続けてきた女性が、実家売却後に兄から思わぬ要求を受けたケースを通して、家族間で起こり得る相続トラブルの実態をみていきます。
「ふざけるな!」実家売却益2,000万円を巡り激怒する58歳兄。10年間、母の介護を一人で担った53歳妹が直面した「あまりに理不尽な現実」 (※写真はイメージです/PIXTA)

10年間一人で母を背負った妹の誤算

相続を巡る争いは、必ずしも財産が多い家庭で起こるわけではありません。むしろ、介護や実家の管理など、家族の誰かが長期間負担を背負ってきたケースほど、「自分だけが損をした」という感情が生まれやすくなります。

 

関東地方に住む田中由美子さん(53歳・仮名)。由美子さんは10年近くにわたり母親の介護を担ってきました。しかし母親の死後、実家の売却によって得られた2,000万円を巡り、兄との関係が一変することになります。

 

「母が亡くなったとき、ようやく一区切りついたと思いました。でも本当に大変だったのは、その後だったんです」

 

由美子さんはそう振り返ります。

 

由美子さんには2人兄妹の兄がいます。兄の洋一さん(58歳・仮名)は大学卒業後に地元を離れ、結婚して別の県で暮らしています。一方、由美子さんは結婚したものの、その後離婚し、50代を迎える頃には実家近くで一人暮らしをしていました。

 

10年前、父親が亡くなった後、母親は一人暮らしとなりました。当初は問題ありませんでしたが、70代後半になると物忘れが増え、通院の付き添いや買い物の支援が必要になったそうです。

 

「最初は月に数回だったんです。でも徐々に頻度が増えていきました」

 

兄にも相談しましたが、仕事や家庭の事情を理由に帰省は年に1~2回程度。母親の通院、介護認定の手続き、ケアマネジャーとの面談、施設探し――。そのほとんどを由美子さんが担うことになりました。

 

厚生労働省の各種調査でも、高齢化に伴い介護サービス利用者や介護需要は増加傾向にあります。家族介護を担う人の負担が長期化するケースも少なくありません。

 

母親は最終的に要介護3となり、デイサービスを利用しながら自宅で生活。由美子さんは仕事を続けながら介護を行っていましたが、勤務時間を減らさざるを得なくなりました。

 

「収入も減りました。でも兄にはあまり言いませんでした。母のことだから仕方ないと思っていました」