長引く物価高と円安の影響は、現役世代だけの問題ではありません。老後資金を十分に準備したはずの高齢世帯にも、「お金が減る不安」が広がっています。貯金3,000万円、年金月24万円で老後は安泰だと考えていた68歳夫婦が直面した現実を通して、「現金を持っている安心」が通用しなくなりつつある時代の落とし穴をみていきます。
「このままだと死ぬ前に底をつく…」〈貯金3,000万円・年金月24万円〉で逃げ切るはずだった68歳夫婦、リタイアから3年で直面した「想定外の恐怖」 (※写真はイメージです/PIXTA)

死ぬ前に貯金が尽きるかもしれない…

転機になったのは今年の春でした。マンション管理組合から、大規模修繕に伴う一時負担金の案内が届いたのです。負担額は約120万円。さらに、自宅の給湯器も交換時期を迎えていました。見積額は40万円近くです。

 

そこへ長男から電話がありました。

 

「子どもの教育費が重なって厳しいんだ。少しだけ助けてもらえないかな」

 

田村さんは返答に詰まりました。現役時代なら迷わず援助していたはずです。しかし今は違います。頭の中では別の計算が始まっていました。

 

医療費は今後さらに増えるかもしれない。どちらかが介護状態になる可能性もある。物価上昇が続けば生活費も上がる。もし85歳、90歳まで生きたらどうなるのか。

 

「今さらながら、気づいたんです。老後資金って残高の問題じゃないんだなと」

 

田村さんは苦笑します。3,000万円あるから安心じゃない。3,000万円で何年暮らせるかが問題。

 

「あと何年、大丈夫だろうね」

 

老後破産というほど切迫した状況ではありません。今すぐ生活に困るわけでもありません。それでも、将来への不安は確実に大きくなっています。

 

はたから見れば恵まれている部類かもしれません。それでも田村さんは、毎月の家計簿を開くたびに胸の奥がざわつくといいます。

 

「このままだと、死ぬ前に底をつくかもしれない」

 

かつては考えもしなかった言葉でした。その不安は、預金残高の数字では測れないものなのかもしれません。