定年後も働き続けることが当たり前になった一方で、再雇用後の待遇や職場での立場の変化に戸惑うシニアは少なくありません。役職定年や賃金低下だけではなく、これまで築いてきたキャリアや自尊心との向き合い方も大きな課題となっています。再雇用後に思いもよらぬ現実に直面した男性の事例を通じて、シニア就労の見えにくい問題をみていきます。
「部長だった俺が、こんな扱いを受けるとは」手取り月18万円・再雇用の61歳男性。20代上司から「使えない」と吐き捨てられ…妻に漏らした「惨めな本音」 (※写真はイメージです/PIXTA)

妻に漏らした本音

それ以降、田中さんは会社へ向かう足取りが重くなりました。朝5時に目が覚めても布団から出られない日が増えました。収入面でも余裕はありません。手取り18万円から住宅ローン、管理費、光熱費、通信費を支払うと残りはわずかです。物価上昇も家計を圧迫していました。

 

仕事を辞めれば生活設計が崩れる。しかし働き続けても、自尊心が削られていく――その板挟みでした。

 

ある夜、晩酌をしながら妻に言いました。

 

「会社に行くたび、自分が小さくなっていく気がする」

「使えないって言われるのは仕方ない。実際、若い人たちのほうが仕事は速い。でもな……」

「38年働いてきた結果、これだ。惨めなんだよ」

 

再雇用制度は、高齢者の就業機会を支える重要な仕組みです。一方で、働く側にとっては収入だけでは測れない問題があります。

 

肩書を失うこと。 評価される基準が変わること。 そして、自分自身の価値をどこに見いだすのかという問いです。

 

61歳の田中さんは、いまも毎朝会社へ向かっています。住宅ローンの返済はあと5年。生活のために働き続ける必要があります。ただ、かつて部長だった自分と、いまの自分をどう折り合いをつけるのか。その答えは、まだ見つかっていません。