(※写真はイメージです/PIXTA)
毎夜繰り返される「尋問」と、消えない執行猶予の身
会社での役職も上がったヨシトさんは、部下を連れての飲み会や、取引先との付き合いなど、ビジネス上の交際費が必要になります。さすがにこれらは月3万円のお小遣いでは賄えないため、ユミさんから別途支給してもらう約束にはなっています。しかし、ここにも息の詰まるような管理体制が敷かれていました。
ヨシトさんが夜、お酒を飲んで帰宅すると、玄関を開けた先にユミさんが待ち構えています。ヨシトさんは酔った頭のまま、その日に使った交際費のレシートをすべてユミさんに提出し、その場で確認を受けなければなりません。
「この『一品料理』ってなに? 2軒目のスナック、本当に男の人だけだったの?」
「参加人数と、合計金額の割り勘の計算が合わないんだけど」
ユミさんはレシートの日時、店舗、金額を細かくチェックします。少しでも不審な点があれば、風呂に入ることも寝ることもできません。
完璧すぎる妻の家計管理の末路
客観的に見れば、ヨシトさんが家計の全権を握る専業主婦のユミさんに対して、「いくらなんでも厳しすぎる」「俺が稼いだ金だ」と言い返してもおかしくありません。しかし、ヨシトさんがどうしても抗えない理由は、ユミさんの完璧すぎる家計管理にありました。
ユミさんは、ヨシトさんの高収入を無駄遣いせず、子どもの教育資金や老後の資産形成、さらには住宅ローンの繰上げ返済など、着実に資産を増やしています。家族の未来を正論で守られているからこそ、「お小遣いを増やしてほしい」「そろそろ俺を信用してほしい」とはいいづらい現実があります。
「自分のしたことは、それほどまでに一生許されない大罪だったのだろうか……」
これほど真面目に働き、家族のために稼ぎ続けてきてもなお、家庭内での自分の格付けが最底辺から微動だにしない現実に、ヨシトさんの心には静かな疲弊が積み重なっていました。
「自業自得だということは、自分が一番よくわかっています。何度も自分にそう言い聞かせてきました。でも……」
ヨシトさんは、そこで小さく言葉を詰まらせました。
「自分が稼いだ数字が並ぶ通帳を眺めることも許されず、ただ家族を養うためだけのATMになってしまったような虚しさは、どうしても拭えません。子どもたちが大学を出るまであと6年。そしたら、離婚しようかと思っています。幸い、妻が貯蓄を積み上げたおかげで、折半しても今後の生活には困らないと思います。困るのは、ずっと専業主婦で働き口のない妻のほうでしょう……」
近年、子どもの独立や定年を機に、それまで耐えてきた夫の側から突然「熟年離婚」を切り出すケースが増えています。犯した過ちの代償は決して軽くないものの、不信感と制裁だけでつながる関係は、結果として夫婦の心を決定的に引き裂いてしまうのかもしれません。子どもが大学を卒業する6年後、ヨシトさんが第二の人生へ歩み出すカウントダウンは、すでに静かに始まっています。
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