(※写真はイメージです/PIXTA)
再び働きはじめると…
「一念発起して、2年間伸ばしていたひげを剃り落としました。もう一度社会とのつながりを取り戻そうと、就職活動を始めたんです」
シニア向けの求人を探すなかで、年齢的な厳しさは覚悟していたといいます。
「やはり60歳を過ぎてからの再就職ですから、簡単にはいかないだろうと思っていました。2年間も無職でブラブラしていましたし(笑)。ところが、ありがたいことにこれまでのキャリアを評価してくださる中小企業があり、予想もしなかった『正社員』の枠で雇ってもらえることになったんです」
再びサラリーマンに戻り、毎日の仕事がスタートしました。そこでなにより驚いたのは、働きはじめてからのトモヒロさんの劇的な変化でした。
毎朝の挨拶、会議での発言、書類の作成、そして若い社員たちとの何気ないコミュニケーション。否応なしに頭と言葉を使う環境に身を置いた途端、あれほど出てこなかった単語や固有名詞が、みるみるうちにスムーズに戻ってきたそうです。
身体が動く限り働き続ける
「まだまだ自分の身体が動くうちは、現役で働こうと思います。毎日が日曜日なんて生活は、本当に身体が動かなくなって、嫌でもじっとしていなきゃいけなくなってからで十分です。やっぱり人間、社会の歯車として回っているときが、一番頭も冴えて、生き生きしていられるんですね」
現在のトモヒロさんは、毎朝行くべき場所があります。自分の言葉で人と交渉し、社会から必要とされているという充実感は、何物にも代えがたいものでした。
通帳にある7,000万円の老後資金は、いまも手をつけられないまま残っています。お金を稼ぐことだけにとらわれず、かつて憧れた「毎日が日曜日」という贅沢な暮らしを一度経験したからこそ、トモヒロさんはいまの自分があるといいます。
「あのとき、思い切ってひげを剃ったことで、気持ちが引き締まる思いがあったんです。鏡を見て『よし、頑張るぞ』と覚悟が決まりました。身だしなみを整えるという当たり前の行為自体が、社会に戻るための最初のリハビリだったのかもしれません。なにより、妻から『やっぱりそのほうが素敵よ』といってもらえたのが嬉しかったですね」
ひげを剃り落とし、再びネクタイを締めた62歳の男の背中には、大金だけでは決して買えなかった、本物の「生きがい」がみなぎっていました。
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