かつては100人の部下を率いた元部長が、定年後の再雇用で年収350万円に激減。オフィスでは若手から「しがみついている」と冷ややかな視線を浴びる日々を送っている――。ある男性のケースから、シニア就業の真実をみていきます。
「あの人、まだ会社にしがみつく気?」年収350万円に激減でも、若手から冷たい視線を浴びても、再雇用・60歳元部長が「絶対会社を辞めない」と決意のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者雇用の現状と、年収大減の現実

厚生労働省『令和7年賃金構造基本統計調査』によると、50代後半部長職(男性)の平均給与は年収1,087万円、月収66.6万円。そして再雇用され、非正規社員になったとしましょう。60代前半の非正規社員(男性)の平均給与は年収479万円、月収33.3万円。統計上は給与は半減となります。現役時代の役職手当の割合によっては、6割減、7割減も珍しいことではないのです。

 

さらに、企業側もシニア層の処遇や若手との関係性に苦慮しています。同省の労働経済分析では、シニア層が自らの役割を認識し、若手への技術承継やサポートに徹することが組織の活性化につながると指摘されていますが、現場でのコミュニケーション不全が摩擦を生んでいるのが現状です。

辛いことが多くても、会社を辞めない「本当の理由」

周囲からの冷たい視線を受け、収入も激減。それでもなお、佐藤さんが頑なに会社を辞めない理由には、単なる生活維持だけではない、日々の小さな喜びがありました。

 

「世間からは『経済的に困っているから、会社にしがみついている』と思われるかもしれません。確かに、年金支給が始まる65歳までの生活費を稼ぐ必要はあります。でも、それ以上に大きいのは、やはりこれまでの経験が誰かの役に立ったと実感できる瞬間があるからなんです」

 

若手全体から冷遇されているわけではなく、中には佐藤さんの実績を頼りにしてくれる後輩も一部には存在していました。

 

「私にも慕ってくれる後輩がいるんですよ。先日も『XX社からどうしても契約がとれないのですが、どうしたらいいでしょうか……』と、深刻な顔で相談を受けたりね。私の現役時代のノウハウをもとにいくつか具体的なアドバイスをしたんです。そうしたら後日、『佐藤さんの言うとおりにしたら、本当に契約がとれました! ありがとうございます!』なんて、嬉しそうにお礼を言われてね」

 

そう振り返り、笑顔の佐藤さん。

 

「もちろん、たまにしかないんですよ、このようなことは。しかし、こういう良いことが一回でもあると、もう少し会社にいたい、もう少し会社の役に立ちたい、と思うんです。ここで得られる喜びは、お金には換えられません」

 

内閣府『令和6年度高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』によると、60歳以上の人が働く理由として「収入がほしいから」という経済的理由が最多(55.1%)であるものの、「働くのは体に良いから」(20.1%)、「自分の知識・技能を生かせるから」(12.4%)といった、健康維持や自己実現を目的とする回答もみられます。

 

佐藤さんのように、大幅な減給や人間関係の葛藤を抱えながらも、自らの経験を組織に還元することに意義を見出す再雇用者は少なくありません。金銭的な損得勘定だけでは測れない、シニア就業の実態がそこにありました。