離れて暮らす高齢の親。心配は尽きないものの、経済的にも健康的にも不安なし。どこか「うちの親は大丈夫」と思っている人も少なくないでしょう。しかしある日、「まさか」の事態は起きるものです。突然緊急搬送され、医師から「あと少し遅かったら……」と言われたある女性のケースから、1人暮らしの高齢の親に潜む落とし穴について考えます。
〈年金月20万円〉1人暮らしの78歳父が緊急搬送…医者「もう少しで手遅れでした。それにしても――」なぜ父は“119番”に電話しなかったのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

「この画面じゃ電話できない」理由を聞いて絶句した娘

実は正雄さん、先日、スマートフォンに機種変更したばかりでした。そのときの様子を美咲さんは振り返ります。

 

「それまで従来型の携帯電話を使っていたんです。でも、最近はスマートフォンじゃないと、逆に不便という場面も増えてきたから変更しました。お年寄りでも操作が簡単という触れ込みのものでした」

 

当時の話を聞くと、正雄さんは痛みに耐えながらスマートフォンを取り出し、画面のロックを解除。しかし、まったく違うアプリを立ち上げてしまい、画面いっぱいにポップアップ広告が表示されてしまったそうです。

 

「父は『画面が広告で塞がれていて、ダイヤルボタンがどこにもなかった』と話していました」

 

電話をかけるためには、画面上の小さな「×」印を押して広告を消せばいい。しかし、操作に不慣れな正雄さんにはその判別がつかず、画面をタップするたびに別のウェブサイトに誘導されてしまったのです。

 

「意識もあって手も動くのに、スマホの画面のせいで119番に繋げられなかったと聞いて『そんなことあるんだ』と唖然としました」

 

総務省『令和6年通信利用動向調査』によると、2024年、70代のスマートフォンの保有率は67.5%、80代でも30.7%。シニア世代にとっても、モバイル端末は生活必需品だといえる状況になっています。しかし一方で、高齢者にとってモバイル端末を使いこなすことには、依然として高いハードルが存在しています。

 

同調査によると、インターネットを利用する際にセキュリティなどに「不安を感じる」「どちらかといえば不安を感じる」と答えた70代は73.7%に上ります。具体的な不安の内容としては、「個人情報や利用履歴が外部に漏れていないか」(86.4%)、「架空請求や詐欺にあわないか」(56.3%)といった声が多く、さらには「どこまでセキュリティ対策を行えばよいか分からない」(48.0%)という戸惑いも浮き彫りになっています。

 

加えて、実際の操作スキル(ICTスキル)の面でも難しさを抱えています。たとえば、「インターネットを利用してアプリやソフトウェアのダウンロード・インストールができる」と答えた割合は、70代男性で32.4%、70代女性では12.6%にとどまっています。さらに80代においては、基本的な操作の「いずれもできない」と答えた人が男性で47.2%、女性で52.5%と約半数に達しています。

 

「便利なスマートフォンを持ってもらっても、使えないんじゃ意味がない。むしろ危険にさらされることもあると痛感しました」

 

多くのスマートフォンには、ロック画面からダイヤルせずに119番できる「緊急通報機能」が備わっています。しかし、これらの機能の存在や使用方法が、当事者である高齢者やその家族に十分に認知されていないという課題もあります。

 

高橋さんはその後、父親のスマートフォンの設定を見直し、操作の訓練を行いました。

 

「父と一緒に緊急通報手順を何度も練習しました。あと、改めて、近所の方とのつながりの大切さも実感しています」

ています」