内閣府の調査によると、子と同居するシニアの約半数が「子や孫の生活費を負担している」という実態があります。年金月16万円と貯金1,200万円で老後を送っていたヨシトさん(仮名・74歳)も、離婚して出戻ってきた娘と孫との同居を機に、老後破綻の焦りを覚えました。「可愛い孫のため」という親心と、娘が抱える“ある心理”が引き起こした問題とは。
「実家に戻ってもいい?」離婚した43歳娘との同居生活から2年…〈年金月16万円〉74歳父が「老後破綻」の焦りを覚えたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「これ以上の援助は無理…」2年で貯金1,000万円割れ、老後破綻への焦りから父が下した〈宣告〉

月16万円の年金は夫婦2人の生活費でギリギリのため、娘や孫への援助はすべて老後資金から捻出していました。そのため当然ですが、徐々にお金は減っていきます。「うちを出ていくめどは立っているのか」という言葉も喉まで出かかりましたが、マイちゃんのために必死なユミさんの姿を見ると、どうしても伝えられませんでした。

 

しかし、1,200万円あった貯金は、わずか2年で1,000万円を切ってしまったのです。

 

「このままでは老後破綻するだけでなく、娘のためにもならない」

 

意を決したヨシトさんはある晩、ユミさんに「これ以上の援助は無理だ。マイのためといいながら、自分の罪悪感を紛らわせるためにお金をかけているだけじゃないのか」と告げました。

 

その言葉にユミさんはその場で泣き崩れました。自分でも金銭感覚がおかしくなっていることに薄々気づきながらも、親としての不安に駆られて止められなかったのです。

 

それ以来、ユミさんは過剰な習い事を整理し、身の丈に合った生活を心がけるようになりました。減った貯金は戻りませんが、今は親子3世代で、お金をかけずとも充実した日々を取り戻しているそうです。

約半数が「子や孫の生活費を負担」…共倒れから救う親側の“線引き”の重要性

出戻ってきた娘や孫のために老後資金を切り崩してしまうヨシトさんのようなケースは、データから見てもシニアが直面しやすい問題です。

 

内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によると、「子や孫の生活費を負担している(ほとんど負担+一部負担)」と答えた割合は、全体では25.2%ですが、「子と同居している人」に限ると49.8%に増加します。同居を機に、親が子や孫の生活費をズルズルと負担してしまうケースが約半数に上っているのが現実です。

 

さらに同調査で、「今後、優先的にお金を使いたいもの」として「子や孫のための支出(学費、こづかい等)」を挙げた人は25.8%いるのに対し、「今後、節約したいと考えているもの」として同項目を挙げた人はわずか6.0%にとどまっています。

 

親にとって子や孫への支出は、一度始まってしまうと「削るのが難しい出費」になりやすい傾向があります。娘の罪悪感と親の優しさが相まって援助額が膨れ上がったのは、こうした心理が影響しているといえるでしょう。

 

しかし、ヨシトさんのような「1,000〜2,000万円未満」の金融資産を持つ層であっても、全体の60.2%が「生活費のために預貯金を取り崩している(よくある+時々ある)」と回答しています。年金生活において、無計画な預貯金の取り崩しは即座に老後破綻につながる深刻なリスクです。

 

「娘のためにならない」と心を鬼にして援助の打ち切りを宣言したヨシトさんの行動は、老後資金を守るだけでなく、金銭感覚が麻痺していた娘に「身の丈に合った生活」を取り戻させるための賢明な決断でした。

 

親と同居する子や孫への愛情が、結果的に双方を経済的破綻へ追いやる事態を防ぐためには、親側からの「線引き」が不可欠であることを、この事例とデータは教えてくれます。

 

[参考資料]

内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」