人生100年時代といわれ、定年後も働き続ける選択をするシニアはもはや珍しくありません。令和6年度 高齢社会対策総合調査 (高齢者の経済生活に関する調査)の結果をみると、60〜64歳の男性の約76%が現在もなんらかの収入を伴う仕事をしており、そのうちの2割以上(22.5%)が自営業・個人事業主として働いています。なかには、退職金を元手にして「シニア起業」による収入確保を目指す人もいます。一方で、50代のころの働きぶりについて「会社や同僚から高く評価されていた」(36.2%)、「経験を積んだ仕事で力を発揮していた」(35.5%)と、現役時代の実績に強い自負を持つ人ほど、その自信を胸に新たな挑戦へと踏み出しがちです。「現役時代のプライド」こそが、ときに取り返しのつかない悲劇を招く落とし穴となることも……。事例をご紹介します。
コケにしやがって!…60歳で左遷された退職金2,400万円の元取締役、古巣を見返すために挑んだ「老後の第二ラウンド」で撃沈したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

順風満帆から一転、60歳で突きつけられた「実質的な左遷」

「俺を誰だと思っているんだ。あいつら全員、後悔させてやる」

 

都市部の中堅機械メーカーで取締役まで上り詰めたコウサクさん(仮名)は、長年尽くした会社から非情な宣告を受け、怒りに震えていました。

 

60歳での役員改選、コウサクさんに突きつけられたのは、業績不振の責任を押し付けられる形での「子会社への出向」人事。実質的な左遷です。プライドはズタズタに引き裂かれました。

 

コウサクさんは現役時代、いわゆる「仕事人間」でした。数々のプロジェクトを成功させ、社内政治を勝ち抜き、ようやく掴んだ取締役の椅子。妻とも老後は安泰だと話していたのです。しかし提示されたのは、取締役解任と、子会社の工場管理部門への異動。給与は3分の1程度に激減する条件でした。

 

さらに残酷だったのは、「退職金」の減額です。左遷がなければ4,500万円程度の予定でした。ですが、実際コウサクさんが手にしたのは、2,400万円。役員退職慰労金が大幅に削られ、2,100万円もの大幅減額となったのです。

 

会社からは「65歳まで子会社の嘱託として働く道を用意している。波風を立てずに受け入れてくれ」と頭を下げられました。しかしコウサクさんのプライドが、かつての部下たちに憐れみの目で見られながら会社にぶら下がることを拒絶しました。

 

「コケにしやがって! なんで俺だけがこんな目に!」

 

コウサクさんは辞表を叩きつけ、退職金2,400万円を手にして40年近く勤めた会社を退職しました。

「古巣を見返す」という呪縛と、妻の悲痛な懇願

「あなた、もう見栄を張るのはやめて。こんなに頑張ってきたんだし、もういいじゃない。これからは2人で静かに暮らしましょうよ」

 

妻はコウサクさんを止めました。しかし、悔しさのあまり周りがみえなくなっていたコウサクさんの耳には届きません。

 

「俺はまだ終わっていない。絶対あいつらを見返してやる」

 

コウサクさんはその後、現役時代の知識と人脈を活かした「経営コンサルタント事務所」を設立しました。そして、「シニア向け高級輸入雑貨のフランチャイズ店舗」の経営を始めます。

 

退職金2,400万円のうち、1,500万円を店舗の加盟金や都内一等地のテナント初期費用、事務所の設立資金として投入。妻の反対を押し切り、「1年でもとを取ってみせる」と豪語して、第二の人生をスタートさせたのです。