(※写真はイメージです/PIXTA)
「肩書」を失った男の現実
現実はコウサクさんの甘い見通しを無慈悲に打ち砕きました。
起業してすぐに思い知らされたのは、「かつての人脈は、自分ではなく『会社』に頭を下げていたに過ぎない」という残酷な事実でした。現役時代、あれほど揉み手で寄ってきた取引先の担当者や後輩たちは、コウサクさんが「個人」になった瞬間、メール一本、電話一本すらまともに返さなくなりました。コンサルタントとしての契約は、月に0件か、1件。さらに、現在の経済環境が追い打ちをかけます。インフレに伴う物価高騰と、進み続ける円安により、FC店舗の運営コストは当初の計画の1.5倍に膨れ上がりました。一方で、高級雑貨を買い求める余裕のあるシニア層は思うように集まりません。毎月、家賃だけで数十万円の赤字が垂れ流しに。
運転資金として、残っていた900万円の退職金も、わずか1年半ですべて溶けてしまいました。
妻の実家で隠居生活
起業から2年。資金が底を突き、それ以上の借金を重ねる勇気もなかったコウサクさんは、ひっそりと店舗をたたみました。
2,400万円あった退職金はほぼ使い果たし、残ったのは数万円の端数がついた通帳だけ。古巣を見返すどころか、自分たちの老後の蓄えを失ってしまったのです。現在、コウサクさんは自宅マンションを売り払い、妻とともに昨年相続が発生した妻の実家に身を寄せています。自宅マンションの売却益を老後資金に、身を潜めるように日々を過ごしています。
居間でため息をつく妻は、コウサクさんと目を合わせようともしません。
定年退職や役員交代の際、会社への「怒り」や「復讐心」を原動力にして第二の人生を踏み出すことは、危険なギャンブルといえるでしょう。コウサクさんが見失っていたのは、自分の実力だと信じていたものの大部分が、実は「会社の看板」という下駄を履かされていたからだという事実です。
コスト高が直撃する市場でのシニア起業は、現役時代のプライドを引きずったまま成功できるほど甘くはありません。組織にしがみつくことを「格好悪い」と切り捨てた代償は、長年連れ添った妻との信頼関係の崩壊と、心許ない資産の老後という、あまりにも重すぎる敗戦となって跳ね返ってきました。
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