「現役時代に頑張って住宅ローンを完済し、老後はその家で安心して暮らす」――。これは戦後の日本において、多くの人が描いてきた老後の生活プランです。公的年金しか収入がない老後に、毎月家賃を支払っていくのは難しいのが現実。おまけに高齢者に物件を貸したいオーナーは少なく、親族が保証人にならなければ、築浅の物件は貸してくれないケースも。若いころに持ち家を買い、定年退職までに完済できれば、家賃の心配がなく安心して暮らせるはず。そう信じて住宅ローンを支払ってきた人は多いでしょう。しかし実のところ、必ずしも「持ち家=老後の安心」ではないようです。子育て期に、家族みんなで広々と暮らせるようにと建てた4LDKや5LDKの郊外の戸建て。一生ここで暮らそうと買ったはずの自宅に、定年退職後に住めなくなってしまって……。本記事では、T家の事例とともにマイホームの落とし穴について解説します。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
いまにして思えば、こんなに広い家、要らなかったな…年金月31万円の60代夫婦が「郊外のローン完済・4LDK戸建て」から「都心の家賃10万円・1DK賃貸マンション〉へ引っ越した理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

老後の新しい家

Tさん夫婦は自宅を現状のまま売却し、解体費用や諸経費を差し引いた約1,000万円を受け取りました。新天地として選んだのは、子供たちも住む都心の「駅徒歩5分・1DK賃貸マンション(家賃10万円)」でした。

 

延床45坪の4LDKから、一気にサイズダウンしたコンパクトな1DKへの移住です。趣味のアマチュア無線はもうやめて機材は処分しました。戸建て時代の大きな家具や食器も処分し、車も売却。手元に残したのは夫婦と子供たちの思い出の品だけ。断捨離ではありませんが、なぜか一気に心も軽くなった気がします。「遺品整理を先にやった感じだね」と夫Tさん。

 

ワンフロアの室内には当然ながら階段がありません。動線がコンパクトにまとまった1DKは、左足に少し違和感の残る妻のCさんにとって、どこにでも数歩で手が届く、一番安全でラクな広さになりました。かつてのように、使わない部屋のために掃除機を持って階段を上り下りする必要も、真夏に庭の草むしりをする必要もありません。室内環境はロボット掃除機1台で健全に保たれています。

 

駅の近くに引っ越したことで、暮らしは便利になりました。

 

大型総合病院、複数のスーパー、役所がすべて平坦な道を歩いて5分圏内に揃っているため、車がなくても不自由しません。軽自動車すら手放したことで、毎月の維持費や保険料は完全にゼロになりました。妻Cさんのリハビリを兼ねて、近所のスーパーまで2人であるいていくのが楽しみでもあります。

 

年金月31万円と、手元に残した約5,400万円の貯蓄があれば、毎月10万円の家賃を払っていっても家計が脅かされることはありません。朽ちていく自宅の修繕費に怯え、使い道のない大きな家の空き部屋のストレスからも解放されました。

 

かつて父親は「家を持ってこそ一人前の男だ」といいましたが、ちょっと現代では無理がある価値観かもねと夫Tさんは笑います。若いときは郊外の大きな家で子育てをし、定年退職後はまたどこかに引っ越す、そんな柔軟なライフプランで家計を考えていく時代なのかもしれません。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表

 

 

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