「現役時代に頑張って住宅ローンを完済し、老後はその家で安心して暮らす」――。これは戦後の日本において、多くの人が描いてきた老後の生活プランです。公的年金しか収入がない老後に、毎月家賃を支払っていくのは難しいのが現実。おまけに高齢者に物件を貸したいオーナーは少なく、親族が保証人にならなければ、築浅の物件は貸してくれないケースも。若いころに持ち家を買い、定年退職までに完済できれば、家賃の心配がなく安心して暮らせるはず。そう信じて住宅ローンを支払ってきた人は多いでしょう。しかし実のところ、必ずしも「持ち家=老後の安心」ではないようです。子育て期に、家族みんなで広々と暮らせるようにと建てた4LDKや5LDKの郊外の戸建て。一生ここで暮らそうと買ったはずの自宅に、定年退職後に住めなくなってしまって……。本記事では、T家の事例とともにマイホームの落とし穴について解説します。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
いまにして思えば、こんなに広い家、要らなかったな…年金月31万円の60代夫婦が「郊外のローン完済・4LDK戸建て」から「都心の家賃10万円・1DK賃貸マンション〉へ引っ越した理由 (※画像はイメージです/PIXTA)

木材の腐敗…改修費用に2,500万円

以前から家の中がカビ臭いなと思っていましたが、最近は部屋のクロスが浮き、部屋の床の幅木が黒ずんでいます。業者を呼んでファイバースコープなどで調べてもらうと、どうやら壁の中が結露で腐朽していることがわかりました。1990年代初頭の住宅は、現在のように壁内通気工法が多くなく、外壁材を防水シートの上に直接貼り付ける工法が多かったのです。これではすぐに結露し木材を濡らしてしまいます。

 

全体を改修するとしたらいくらかかるかと業者に質問したところ、木材が腐っているためお勧めはしないが、家全体を直すとすると1,500万円から2,500万円ほどかかるのではないかとのこと。借り住まいの往復の引っ越し費用を含めると、もっとかかります。「このままでは大地震が来たら倒壊しかねません。多くの人は改修せずに解体します」といわれました。

 

Tさんは、日本の住宅の解体までの年数は平均40年弱だとどこかで聞いたことがありましたが、Tさん夫婦の自宅も32年が経過しています。もとは田んぼだったというこのニュータウンの地盤にも問題があったのかもしれません。

 

2,500万円を出して改修するのか、それとも建て替えるのか、それとも賃貸マンションに移るか、夫婦で話し合いました。預貯金があるため2,500万円は出せますが、残りの貯金で暮らしていけるか不安です。建て替えるには2,500万円ではとても足りません。

 

「もっと便利なところに引っ越して、賃貸マンションにしましょうよ」と妻Cさんがいいます。運転免許は長くても10年以内に返納する予定です。改修したところで、駅から徒歩30分のこの家では暮らせなくなるかもしれません。「スーパーさえ歩いていけないこの古いニュータウンでの暮らしはそろそろ終わりかもね」と、夫Tさんが答えます。

 

それに近所は同世代の高齢者しかいない。「ニュータウンじゃなくてオールドタウンだね」と夫婦で笑いました。