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「土地値1,000万円」の現実
移住に向けて、Tさんは早速、地元の不動産会社に自宅の売却査定を依頼します。建物としての価値がゼロであることは覚悟していましたが、かつて3,000万円で購入した土地です。地価値だけでも、せめて2,000万円近くで売れれば、新しい生活の原資になると期待していました。しかし、不動産会社から提示された査定額は、期待を大きく裏切るもので、「こちらの土地は1,300万円での売却が限界です」と担当者は、申し訳なさそうに理由を説明してくれました。
最近の住宅市場において、家を購入する若い共働き世帯が重視するのは、駅からの近さです。都心から電車で1時間以上かかり、さらに駅から徒歩30分以上、自動車が必須という立地は、それだけで需要が落ち込みます。
さらに、70坪という広さも現代では裏目に出ます。若い世代は総予算を抑えたいため、30〜40坪のコンパクトな土地を好むのです。広すぎる土地は、坪単価を大幅に下げないと買い手がつかないというのが、現代の郊外の「オールド」ニュータウンが抱える共通の問題です。
「しかも、建物の解体費用として、延床45坪の木造ですと、昨今の人件費や廃材処分費の高騰もあり、約250万から300万円が売主様のご負担になります。実質的な手残りは1,000万円程度になってしまうかもしれません」
バブル期の恩恵を受けて自力で貯めた1,000万円と、父親が特例を使って無税で譲ってくれた大切な1,000万円、苦労して返済した4,300万円のローン。総額6,300万円ものお金を注ぎ込み我が家の価値が、実質1,000万円にまで目減りしてしまうとは……。
夫Tさんはふと九州の大きな実家を思い出しました。祖父が建てた家は築100年を超えてもまだしっかりとしています。昭和初期の家は当然ながらヒノキやクスノキなどの国産材を使い、気密断熱とは無縁だけど通気をよくして木材が乾燥するようになっていたのでしょう。Tさんが家を建てた時代の家は、木材を接着剤で固めた集成材を使っています。祖父の時代の家は資産でしたが、バブル期の家は消耗品だったのかもしれません。
気をつけてよくみると、自宅周辺でも建て替えている家が数多くあります。「一生に一度の買い物といったものだけど、実は一生に2回じゃないか」。一生に一度というのは、Tさんの祖父のような昭和初期の時代にいえる言葉かもしれません。