内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年人々のつながりに関する基礎調査)」によると、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は全体平均で4.5%であるのに対し、「仕事をしていない(仕事を探している)」人では11.0%、「未婚」の人では9.0%と大きく数値を上回っています。このデータは、社会から孤立する現役世代や中高年層の実態を明確に示しています。こうした孤立した子を、高齢の親が年金や貯蓄を切り崩して支え続けるケースは全国で起きており、限界を迎えた末の「親子共倒れ」が危惧されているのです。本記事では、家族だけで問題を抱え込む構造的なリスクと、そこから抜け出すための道筋を探ります。※事例の人物名はすべて仮名です。
「お母さんはしばらく帰りません…」机の上の置手紙と空っぽの通帳。年金月14万円の70歳夫とひきこもりの41歳息子を残し、66歳妻が静かに“蒸発”した日 (※写真はイメージです/PIXTA)

「頼れる人が誰もいない」追い詰められた末の選択

内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年人々のつながりに関する基礎調査)」によると、日常生活に不安や悩みを抱えていても、行政機関やNPO等から支援を「受けていない」人は87.0%に上ります。その理由として「どのような支援があるのか知らない」「受け方がわからない」といった声も挙げられています。さらに、困ったときに頼れる人が「いない」と答えた人の孤独感は突出して高く(25.1%)、チアキさんもまた、支援の網の目からこぼれ落ちた「声なき孤立者」の一人でした。

 

チアキさんは、周囲に助けを求めることができませんでした。「息子がひきこもりであることを他人に知られたくない」という意識と、「私が面倒をみなければこの子は生きていけない」という義務感が、彼女の足を地域の福祉窓口から遠ざけていました。

 

しかし、自身の体力の衰えに加え、2020年代半ばからの物価高騰が家計をさらに圧迫します。どんなに自分が身を削っても、年金と底を突いた貯金では、もうこれ以上この生活を維持できません。

 

「もう限界……。ごめんなさい……」

 

チアキさんが選んだ蒸発は、これ以上耐えきれなくなった一人の人間としての、ギリギリの自己防衛だったようです。

家族という「クローズドな空間」が崩壊するとき

チアキさんが家を出てから、残されたシゲハルさんとゴローさんは、これまで彼女がどれほど過酷な役割を担っていたかを、身をもって知ることになります。

 

年金口座から生活費を引き出し、自分で買い出しに行き、ご飯を作り、2階の息子と対峙する。これまで当たり前にあった家事と家計管理という役割を担う人が失われ、シゲハルさんたちの生活はわずか数日で破綻の危機に瀕しました。

 

こうした高齢者家庭の家庭内孤立を防ぐために、現代の福祉の現場では以下の対応が叫ばれています。

 

・「母親頼み」からの脱却:ひきこもりや生活困窮の課題を家族間で抱え込まず、まずは親族や第三者が「ひきこもり地域支援センター」や福祉事務所などの公的機関に相談を繋ぐ。

 

・家計の見える化:家族全員が現在の収入(今回のケースであれば年金14万円)と支出の実態を正確に把握し、身の丈に合わない出費(子の浪費など)を物理的にストップさせる。

 

「母親だから」という理由だけで、無限の犠牲を強いる家庭環境は、いつか必ず持続不可能になります。チアキさんが家を出たことは、残された二人にとって、自分たちの人生の責任を自分たちで取るための、最初で最後のチャンスなのかもしれません。

 

シゲハルさんはいま、2階の息子とどう向き合い、月14万円の現実をどう生き抜くかという、これまで避けてきた重い課題に直面しています。妻の「しばらく」がいつまでかはわかりません。帰ってきてくれるまでに息子の問題を1歩でも前進させられるよう、努力しています。

 

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