内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年人々のつながりに関する基礎調査)」によると、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は全体平均で4.5%であるのに対し、「仕事をしていない(仕事を探している)」人では11.0%、「未婚」の人では9.0%と大きく数値を上回っています。このデータは、社会から孤立する現役世代や中高年層の実態を明確に示しています。こうした孤立した子を、高齢の親が年金や貯蓄を切り崩して支え続けるケースは全国で起きており、限界を迎えた末の「親子共倒れ」が危惧されているのです。本記事では、家族だけで問題を抱え込む構造的なリスクと、そこから抜け出すための道筋を探ります。※事例の人物名はすべて仮名です。
「お母さんはしばらく帰りません…」机の上の置手紙と空っぽの通帳。年金月14万円の70歳夫とひきこもりの41歳息子を残し、66歳妻が静かに“蒸発”した日 (※写真はイメージです/PIXTA)

突然の失踪と、残された「残高ゼロ」の現実

「お母さんはしばらく帰りません。探さないでください」

 

見慣れた妻の文字で書かれた置手紙の横には、数冊の預金通帳が並んでいました。シゲハルさんが慌てて通帳を開くと、貯金残高はどれも「0円」に近い数字になっていました。

 

家の中を見渡しても、妻・チアキさん(66歳)の荷物はボストンバッグ一つ分しか消えていません。服も靴も、多くは残されたままでした。

 

家の2階からはドタバタという鈍い物音と、なにかを激しく叩きつけるような音が響いてきます。それは、15年以上自室にひきこもっている息子・ゴローさん(41歳)が、母親が朝食を持ってこないことに苛立っているサインでした。

母親一人に集中していた「ケア労働」の限界

チアキさんが衝動的に家を出るほどに、心と体を限界まで追い詰めていたのは、家庭内における「終わりのない孤立無援」の苦しみでした。

 

長男のゴローさんは、32歳のときに自ら友人と立ち上げた事業で失敗し、人生の挫折を味わって以来、自室からほとんど出てきません。昼夜逆転の生活を送り、気に入らないことがあると壁を叩いてチアキさんを怒鳴りつけていました。チアキさんは毎日、ゴローさんの怯えるような、あるいは攻撃的な視線に晒されながら、食事を運び、洗濯物を回収し、腫れ物に触るようにして息子の世話を続けてきたのです。

 

一方で、夫のシゲハルさんは現役時代から「家庭のことは妻の仕事」と割り切り、定年後もゴローさんの問題から目を背けてきました。シゲハルさんは「そのうち自分で気づいて働きに出るだろう」「お前の育て方が甘いからこうなったんだ」と、チアキさんの相談をまともに取り合ってきませんでした。

 

息子の家庭内暴力への恐怖、夫の無関心、そして世間からの冷たい目線をすべて一人で背負い込んできたチアキさん。

 

通帳に残高がほとんど残っていなかったのも、チアキさんが私欲のために持ち逃げしたからではありません。世帯としての年金収入は、夫であるシゲハルさんの厚生年金(月14万円)と、チアキさんが受給する国民年金(月5万円)があり、月額19万円です。本来であれば、高齢夫婦が地方で慎ましく暮らすには十分な金額のはずでしょう。

 

しかし、大人3人分の基本生活費に加え、ゴローさんの趣味のコレクション費用、さらには毎月数万円にのぼるオンラインゲームの課金代などが重なり、家計は常に限界を迎えていました。チアキさんが自身のパート収入やこれまでの貯蓄を切り崩して、必死に家計の赤字を埋め合わせ続けた結果だったのです。