「苦労して35年ローンを払い続ければ、家は一生の資産になる」――。そんなかつてのマイホーム常識が、いまや買い手がつかない“負動産”化のリスクによって揺らいでいます。家族のためにと無理をして買った一戸建てが、将来子どもたちの重荷になってしまうかもしれないという不安は、現代のシニア世代に共通する深い悩みです。本記事ではAさんの事例とともに、マイホーム購入時に欠かしてはならない視点について、1級ファイナンシャルプランナー技能士の川淵ゆかりFPが解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
「あんなに、幸せだったのに…」31歳で買った持ち家のある街がゴーストタウン化、当時月収28万円だったサラリーマンが背負った「3,000万円・35年ローン」の悲しき結末【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

発端は入居5年目、30年かけて進んだ「街の老化」

最初の異変は、引っ越しからわずか5年が経ったころでした。景気の悪化に伴い、地域の雇用を支えていた電機メーカーの工場が突然、撤退を決めたのです。

 

それを境に、街の衰退は加速していきました。しばらくすると地域の象徴だった商業施設が姿を消し、周辺の個人商店も次々と閉店に追い込まれます。Aさんが住む地域は、働く場所と買い物をする場所を同時に失い、かつての「住みやすい街」から「生活するだけでも大変な街」へと数年かけて変貌を遂げてしまいました。

 

生活の不便さへの不満や、あるいは新たな仕事を求めて、ほかの地へ引っ越す人もたくさんいました。一方で、新しく移り住んでくる人は少なくなっていきます。人が減り、残されたのは、かつて一斉に入居した住人たちの一部だけ。住人の年齢層も徐々に上がっていきました。

 

賑やかだった公園は、子どもたちの成長に伴い、だんだんと静かになってきて、いまではAさんのように定年退職を迎えた60代や70代が目立つように。街から活気が失われるとともに、住人通しが外で集まって談笑するような雰囲気も薄れていきます。そのせいか、近隣住民はそれぞれ家に閉じこもりがちになり、外の通りもひっそりとしています。

自宅周辺で増え続ける“空き家”、「資産」にならなかった家

この地域は、車がなければ、買い物や病院に通うのにも不便な場所です。そのため、年齢を重ねて免許を返納し、生活がままならなくなった世帯から、老人施設に入所したり子どもとの同居のために家を出たりする人が相次ぐようになりました。結果として、現在は空き家も目立つように。

 

地域の足となっているバスが運行していますが、昨今の人手不足の影響か、いつも運転手を募集している状態。赤字との噂もあって、いつまで運行してくれるかAさんは心配でなりません。

 

都内に住むAさんの息子夫婦は、そんな親の状況を察して「一緒に暮らそうか?」といってくれます。しかし、さほど広くもないマンションに二人で押しかけるのは申し訳なく、将来、子どもでも産まれれば、生活スペースはさらに逼迫することが目にみえています。

 

いまはまだ夫婦ともに元気ですが、10年後、20年後のことを考えると不安しかありません。年々寂れていく街を眺めながら、最近では、夫婦で散歩をしていてもほとんど会話がなくなってしまいました。

 

「“家は財産”と思い、苦労しながら30年間ローンを払ってきました。ですが、いまの状況では売るにしても買い手も見込めず、老後の資金の足しにもなる可能性も低いでしょう。まさに“負動産”化しそうです。子どものため、家族のためと思って買った家が、子どもの“重荷”になりそうで、不安を抱えながら夫婦二人で暮らしています」

 

Aさん、そう深くため息をつきました。

FPからのアドバイス:“家を守る”のではなく“自分たちの生活を守る”発想へ

Aさんが入居した当時、工場や商業施設がすべて撤退することなど予想できるはずもなく、不運としかいいようがありません。しかし、これから人口減少が加速する日本では、同じような地域が増えてくると予想されます。

 

「家は一生に一度の買い物」といいますが、老後の生活までを俯瞰すると、その常識は必ずしも正解とはいえません。“終の棲家”までを考えて、いつ、いくら住まいにお金をかけていくのか、という長期的な視点での資金計画が不可欠です。

 

Aさんのように、若いころ“夢の街”に持ち家を購入した人が、老後になって思わぬ不便さに直面するケースは今後一層増えていくでしょう。しかし、いまからでもできる備えはあります。

 

・不動産の査定だけでも早めに済ませておく

・移動支援や買い物代行など、地域のサービスを把握しておく

・老後の住まいについて家族と話し合っておく

・“家を守る”のではなく“自分たちの生活を守る”発想に切り替える

 

こうした準備をしておくことで、「この街を出たいのに、経済的にも物理的にも出られない」という状況を避けることができます。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

 

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