進学時の「情報の乏しさ」は、単なる学歴の差に留まらず、その後の人生における人間関係やキャリア形成にまで深刻な影を落とし続ける。孤独に問題を抱え込みやすい環境のなかで孤立を深めてしまえば、悪意の罠や不安定な雇用環境から抜け出すことは容易ではない。32歳男性の事例を通して、奨学金利用者の実態を紐解く。
全部ひとりで抱え込んでしまいました…奨学金を借りて「第5志望の東京の大学」に行った地方出身・現在32歳の男性、上京先で親しくなった友人からの「相談」で身を滅ぼしたワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

調査データにみる、卒業後の共通の課題

労働者福祉中央協議会(中央労福協)が実施した「高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024」によると、大学卒の奨学金利用率は45.2%に達しており、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金利用者の借入総額平均は344.9万円にのぼる。Aさんの280万円という数字は特別な例ではなく、現代の学生にとって極めて平均的な現実といえる。

 

さらに同調査では、奨学金の返済義務がある人のうち、実質的な「貯蓄」に影響していると答えた人は6割強にのぼり、「結婚」は4割半ば、「出産」や「子育て」については4割前後が影響を実感しているという結果も示されている。これほど多くの人々が卒業後の生活設計になんらかの負担を感じている現状をみれば、これは個人の孤軍奮闘に委ねるだけでは解決が難しい、共通の課題であることが窺える。

 

Aさんが大学進学時や、その後の生活において孤独に問題を抱え込み、相談相手をみつけられずにいた背景には、こうしたセーフティネットの利用中や卒業後の生活において、若者が社会的に孤立しやすい構造が存在していた。

求められる公的支援と、社会全体の支え合い

したがって、この課題へのアプローチは、困ったあとの先送り(猶予)だけに頼るのではなく、卒業後の日々の生活をいかに安定させるかという視点が重要になってくる。

 

先述の中労福協の同調査によると、国への公費負担拡充や授業料減免を求める声は、低所得層だけでなく中間層でも5割前後に達しており、優先的に実現してほしい政策として「大学などの授業料を半額程度にすること(大学への公的助成の増額)」を望む声が最も多い。

 

また、こうした公的支援の要請と並ぶように、近年では深刻な人手不足を背景として、民間企業が従業員の奨学金返済をサポートする制度(代理返還制度など)を導入する動きも広がりをみせつつある。これらは、単に個人の負債を穴埋めするという意味に留まらず、国や企業が一体となって、若者が経済的・心理的な孤立を深めることなく、安心して次のライフステージへ歩みを進めるための、現実的な支えとなり得る。

 

学びたいという純粋な願いを出発点とした奨学金の問題を、借りた本人だけの殻のなかに閉じ込めてはならない。一時的な先送り制度だけに委ねるのではなく、国、企業、そして社会全体で若者の生活と未来をどう支えていくのか――いま、現実に即した構造改革が改めて問われている。

 

〈参考〉

【高等教育費や奨学金負担に関するアンケート2024】全国3,000人を対象に調査 ― 半数以上が高等教育費への公費負担拡充求める
https://www.rofuku.net/20241018/

 

 

大野 順也

アクティブアンドカンパニー 代表取締役社長

奨学金バンク創設者

 

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