親が自身の老後資金を削ってまで、成人した子の生活費や負債を補填する「親子共倒れ」。定年後の安定した生活を設計していたはずが、予期せぬ家族のトラブルによって、その土台が根底から覆されるケースも少なくありません。今回は、ある男性のエピソードを通して、公的年金制度の活用法についてみていきます。
「お父さん、ごめんなさい…」〈借金1,000万円〉で詰んだ41歳長男が土下座。「大丈夫だ。俺に任せておけ」と年金繰下げ中の69歳父、「まさかの決断」 (※写真はイメージです/PIXTA)

息子の借金1,000万円。老後の平穏が崩れた瞬間

埼玉県内の閑静な住宅街。田中徹さん(69歳・仮名)は、60歳で大手メーカーを定年退職し、現在は再雇用制度で契約社員として働きながら、妻と二人で穏やかな日々を過ごしていました。

 

「給与があるうちは年金をもらわず、その分、将来の受取額を増やしたい」

 

そう考えた徹さんは、公的年金の受給開始を遅らせる「繰下げ受給」を選択し、70歳からの受給を予定していました。しかし、その平穏は突然崩れます。

 

「お父さん、本当に申し訳ない。もう、どこからも借りられないんだ」

 

ある日、自宅を訪ねてきたのは、都内で一人暮らしをしている長男の和樹さん(41歳・仮名)。会うなり土下座をし、「お金を貸してほしい」と訴えてきました。理由は、勤務先の業績悪化による減収と、それを補おうとして手を出した投資の失敗。消費者金融などからの借入は、総額1,000万円に膨らんでいました。

 

「真面目だけが取り柄のような子でした。でも、利息の返済で精一杯で、生活が立ち行かないという。突き放すべきか、助けるべきか……葛藤しました」

 

和樹さんは「自己破産するしかない」と肩を落としていましたが、徹さんは息子の将来を思い、簡単に見捨てることができませんでした。

 

「1,000万円もの大金を出せば、自分たちの老後資金は大きく減る。病気や介護への備えもある。すぐには決断できずに……」

 

それでも最終的に徹さんは、「大丈夫だ。俺に任せておけ」と、息子の借金を肩代わりする決断を下します。繰下げ受給を続けていれば将来の年金額は増えますが、今回はそれを取りやめ、65歳時点からの受給に切り替える手続きを行ったのです。その結果、これまで受け取っていなかった年金(最大で過去5年分)を一括で受け取ることが可能となり、老後資金の一部とあわせて、借金の返済に充てることにしました。

 

「将来のために増やすはずだった年金が、まさか息子の借金返済に消えるとは思いませんでした。これでよかったのかと、自分に言い聞かせるしかありませんでした」