親子の絆という言葉の裏で、知らぬ間に「依存」と「支配」の境界線が曖昧になってしまうケースは少なくありません。ある親子の事例から、親子間のあるべき距離感と自立の重要性を考えます。
お母さん、ヒドイじゃないか!月収50万円・54歳の独身息子。職場のトラブル対応で深夜の帰宅、待ち構えていた79歳母が放った「残酷な一言」 (※写真はイメージです/PIXTA)

自分は誰のために生きてきたのか

都内の通信会社で働く高橋直樹さん(54歳・仮名)は、現在も母親の静子さん(79歳・仮名)と二人で暮らしています。高橋さんは大学卒業後、一度も実家を出たことがありません。自らの半生を振り返り、母親との関係を「共依存という言葉では片付けられない支配」だったと語ります。

 

高橋さんの家庭では、幼少期から静子さんの機嫌がすべてを決定していました。テストの点数、友人選び、就職先に至るまで、静子さんの意向に沿わない選択は許されませんでした。


「お前のために言っている」

「お前は一人では何もできない」

 

そんな言葉を日常的に投げかけられ、高橋さんはそれを受け入れることで家庭内の平穏を保ってきました。

 

「月収は50万円ほど。経済的に自立はしていましたが、常に母の意向を優先してきました」

 

決定的な出来事は、高橋さんが32歳のときでした。当時、真剣に結婚を考えていた女性を実家に連れて行った際、静子さんは豹変しました。女性が帰宅した後、静子さんは「あんな品のない女、うちの敷居を跨がせるわけにいかない」「私を捨ててあの女のところへ行くなら、私はここで死んでやる」と詰め寄りました。結局、高橋さんは母親の執拗な反対と、連日の泣き落としに耐えきれず、結婚を断念しました。

 

「あの時、自分の意志を貫いていれば、別の人生があったのかもしれません。しかし、母を一人にすることへの罪悪感が勝ってしまったのです」

 

そう語る高橋さんですが、50代に入り、静子さんの言動はさらに過激さを増しています。最近では、高橋さんの帰宅が仕事で少しでも遅れると、玄関で待ち構えて罵声を浴びせるようになりました。

 

「誰のおかげで生活できていると思っているのか」

「親を捨てて自分だけ楽しむのか」

 

先日、高橋さんが職場のトラブルで帰宅が深夜になったときのことです。静子さんは開口一番、「帰りが遅い。お前は本当に気が利かない、役立たずだ」と言い放ちました。

 

高橋さんはそのとき、長年抑えてきた感情が溢れ、突発的に「お母さん、酷いじゃないか。僕はこれまで、全部お母さんの言う通りにしてきたんだよ」と声を荒らげました。しかし、静子さんは怯むことなく、「私が頼んだわけじゃない。お前が勝手にやったことだ。嫌なら出て行けばいい」と返したといいます。

 

高橋さんはその瞬間のことを、次のように振り返ります。

 

「その言葉を聞いたとき、これまで自分は何のために生きてきたんだろう、何を優先してきたんだろう……と、すべてが嫌になってしまった」

 

現在、高橋さんは静子さんとほとんど会話を交わしていません。同じ屋根の下に居ながら、必要最低限の接触しかない状態です。