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「最期が一番貧乏でいい」と笑っていたあの日
かつて中堅商社で活躍していた佐藤昭さん(81歳・仮名)は、現役時代から「老後資金は使い切って死ぬ」と公言していました。退職金と長年の蓄えを合わせ、定年時に手元にあったのは約4,000万円。年金は基礎年金と厚生年金を合わせて月額19.5万円と、平均以上の水準です。
なぜ「老後資金は使い切る」という極端な考えに至ったのか。そこには、佐藤さんが見てきた苦い記憶がありました。
「ずいぶんと昔のことですが、祖父が亡くなったときに相続で揉めに揉めて。お金を残して死ぬもんじゃないな、と考えるようになったんです」
佐藤さんは、当時の自分の判断を「完璧な計画」だと思っていたと振り返ります。
「妻ともよく話し合いました。せっかく苦労して稼いだ金を、死んだ後に銀行に眠らせておいても仕方がない。それなら動けるうちに二人で世界を見て回り、美味しいものを食べようと。妻も『そうね、子どもたちに面倒をかけないのが一番ね』と笑っていました」
60代から70代にかけて、佐藤さんはその計画を忠実に実行しました。2年に一度の海外旅行、高級家具への買い替え、そして孫が来るたびに渡す高額なお小遣い。お金を使うことで、自分たちの人生が豊かに締めくくられていく手応えを感じていたといいます。
「当時は、75歳を過ぎたら体力的にも出歩かなくなるだろうし、80歳まで生きれば御の字だと思っていました」
3年前、1年ほどの闘病の末に妻が他界。その際も、治療や介護についてお金の心配をすることはなかったと語ります。
「お金に対する執着はないので、それよりも納得できる最期であることが大切だったんです」
そして81歳となった佐藤さん。「80歳まで」という想定を超えた今、驚くほど健康だといいます。
「80歳を過ぎても健康そのもので、食事も三食しっかり食べられる。4,000万円あった資産は予定通り底をつこうとしているのに、私の命は尽きる気配がありません」
現在、佐藤さんの銀行口座に残っているのは、わずか数十万円。かつての「理想の幕引き」は、今や「終わりのない不安」へと変貌しました。
「この年で健康なのは贅沢なことですが、万一のときに『お金がない』というのは不安でしかありません。この先、子どもたちに迷惑をかけてしまうかもしれない。『お金を使い切る』なんて、傲慢だったと今さら感じています」
