(※写真はイメージです/PIXTA)
92歳父の現在地
父が求めていたのは、姉が誇る「特別なメニュー」ではなく、喉を通りやすい、いつもの質素な食事でした。シュウコさんのハンバーグも餃子も、かつての元気だったころの父なら大喜びで食べたでしょう。しかし、父の「現在地」を一番よく知っているのは、毎日通っているレイコさんだけなのです。
冷凍庫に整然と並ぶ、姉の愛情を眺めながら、レイコさんは一人、取り残されたような気持ちになります。
「お姉ちゃんに悪気はないけれど、お父さんの本当の姿を見ていない……」
ですがレイコさんは、父の言葉をシュウコさんに伝えることができません。「わざわざ作らなくていいよ」といえば、姉はきっと「せっかく想ってやってるのに」と傷つくでしょう。
母の介護で疲れ果てた横で、父が啜る質素なうどん。姉の華やかな料理と、父の静かな食卓。そのあいだに挟まれたレイコさんは、誰にもいえない溜息とともに、冷凍庫の作り置きを半分自宅に持って帰りました。
「報われない介護」を避けるには
レイコさんの孤独感は、単なる家事や介護の大変さではなく、家族間の「お金と労力の使い道のズレ」に起因しています。
厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によれば、同居の主な介護者が抱える悩みやストレスの原因として、「家族との人間関係」は上位に挙げられます。特に「遠方に住む、たまにしか来ない親族」との認識の差は、現場を守る介護者の孤立感を深める大きな要因です。
「私がいないあいだも、美味しいものを食べてほしい」というシュウコさんの願いは、もちろん善意です。しかし、大切なお金と時間を「相手の喜び」ではなく「自分の得意なこと」に投じてしまうと、現場のレイコさんにとっては「父の拒絶の矢面に立つ」という新たな精神的負担を増やしてしまうことになります。介護における真のサポートとは、自分の満足感のためにお金を使うことではなく、現場がいま、なにを「削ぎ落としたいか(今回の場合は、簡素な食事でいいという空気作りや金銭的支援)」を汲み取ること、つまり家計と労力の「最適化」を手伝うことではないでしょうか。
生命保険文化センター「2021(令和3)年度 生命保険に関する実態調査」によれば、介護に要した費用(月額)の平均は8.3万円です。両親の年金内でこれをやりくりしているレイコさんにとって、姉の「単発で高額な食費支援」は、家計のバランスを整える助けにはなりにくいのが現実です。今回の場合であれば、シュウコさんが費やした1万円の材料費は、父が望まない「特別なメニュー」ではなく、母のオムツ代や医療費、あるいはレイコさんが一息つくための休息費用といった、「介護のランニングコスト」に充てたほうが、家族全体の家計と心の安定にはるかに大きく寄与した可能性があります。
レイコさんが感じている報われなさを解消するには、父がいまの機能で「自力でできる範囲」にまで、支援のレベルをシンプルに落とす必要があります。この「引き算の支援」こそが、「うどんでいい」という父の平穏を守ること。それが、いまの状況においては「一番のご馳走」なのかもしれません。
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