長年勤め上げた会社を退職し、第二の人生を謳歌しようとした矢先、予期せぬ通知が平穏な日常を壊す――。ある男性のケースから、守るべき「実家管理」の鉄則を考えます。
〈退職金2,000万円〉65歳定年サラリーマン、祝杯をあげるはずが〈300万円の損害賠償〉に唖然。7年放置の実家が招いた「あまりに残念な結末」 (※写真はイメージです/PIXTA)

実家の管理は妹に任せていたはずだが…

都内の精密機器メーカーで定年を迎えた佐藤和夫さん(65歳・仮名)。定年退職の日、人事部での手続きを終えて帰宅。定年祝いに乾杯を、と考えていましたが、その日に通知を受け取ったといいます。送り主は、実家がある地方自治体の空き家対策担当部署でした。封書には「管理不全空家に関する指導勧告」という文字と、実家の現状を写した数枚の写真が同封されていました。

 

「7年前、母が施設に入所した際、実家の固定資産税や光熱費の基本料金は、すべて母の口座から自動引き落としになるようにしました。私の懐が痛むわけではないので、どこか他人事で、実家の存在が完全に意識の外に置かれていたんです」

 

佐藤さんは、地元に残る妹(61歳・仮名)が、たまに様子を見に行ってくれているものと思い込んでいました。しかし、佐藤さんが慌てて妹に連絡を入れると、返ってきたのは意外な言葉でした。

 

「妹からは『最初の数年は通ったけれど、私も体調を崩したり孫の世話があったりで足が遠のいてしまった。お兄ちゃんから何の連絡もないし、もう業者か誰かに任せているんだと思っていた』と言われました。兄妹間での現状確認を、10年以上も怠っていたのです」

 

佐藤さんが7年ぶりに訪れた実家は、もはやかつての面影を留めていませんでした。木造2階建ての家屋は、伸び放題になった蔦に覆われ、建物の輪郭すら定かではありません。

 

「隣家の方からは、数年前から異臭がひどく、ネズミや害虫が大量に発生していると告げられました。さらに、昨年の台風で剥がれ落ちた屋根の瓦が隣の家のカーポートを直撃していたことも判明しました。住民の方からは『登記簿を見てお母さん宛に何度も手紙を出していたのに無視された』と、過去の手紙の束を突きつけられました。母の元に届く郵便物は施設に転送されるよう手配していましたが、施設側も『ご家族に関わるもの』として、開封せずに溜め込んでいたんです」

 

佐藤さんが鍵を開けて中に入ると、室内は母が溜め込んだ衣類や生活ゴミが天井近くまで積み上がった「ゴミ屋敷」の状態でした。雨漏りによって床板は腐り、一歩踏み出すたびに足元が沈み込む感触があったといいます。

 

「自治体の担当者からは、放置を続ければ固定資産税の減額特例を解除し、最悪の場合は行政代執行による強制解体を行うと言い渡されました。その費用は500万円を超えると概算を出され、頭を抱えました」

 

さらに数日後、隣家の住民が立てた弁護士から、カーポートの修理費用と長年の不衛生な環境に対する慰謝料として、計300万円の損害賠償を求める通知書が届きます。

 

「退職金は2,000万円ほど出ましたが、解体費用と賠償金、さらに山積した遺品やゴミの処分費用を合わせると、1,000万円近くが消える計算です。親の金で維持できているという安心感が、最大の落とし穴でした。退職金の多くは、実家の不始末を埋めるために消えていくことになりそうです」