5歳の孫「おじいちゃん、これ欲しい」
大型ショッピングモールのおもちゃ売り場で、翔太くん(5歳・仮名)は迷いなく棚の商品を指差しました。人気キャラクターの限定フィギュアです。価格は8,900円。祖父の高橋正夫さん(74歳・仮名)は値札を見ると、そのまま商品を手に取りました。
「高いんじゃない?」
妻の高橋和子さん(72歳・仮名)が言います。しかし正夫さんは笑いながら答えました。
「いいんだよ。ひとり孫なんだから」
娘の美咲さん(42歳・仮名)も「そんなの悪いよ」と口では言いましたが、強く止めることはありませんでした。 高橋家では珍しくない光景でした。むしろ、それが当たり前になっていました。
「今だけだから」
高橋夫妻は首都圏の分譲マンションで暮らしています。夫婦の年金収入は月約25万円。住宅ローンはすでに完済しています。管理費と修繕積立金が月3万4,000円。食費、光熱費、通信費、医療費、保険料などを合わせると毎月の生活費は約21万円になります。
日々の生活に困る状況ではありません。退職時には約2,500万円あった金融資産も、現在は約1,600万円あります。周囲から見れば、老後は比較的安定している世帯だといえるでしょう。
ところが、家計簿には年々膨らみ続ける項目がありました。「孫関係」です。翔太くんは娘夫婦にとっての一人息子。共働きのため、週末は祖父母宅で過ごすことも多く、高橋夫妻の生活の中心になっていました。
最初は誕生日とクリスマスだけだったといいます。ところが幼稚園に入るころから出費は増え始めました。
――運動会を頑張ったから
――発表会が終わったから
――遠足があるから
――進級したから
何か理由があるたびに、夫妻はプレゼントを買っていました。ゲーム機が4万8,000円、子ども向けタブレットが6万2,000円、テーマパークの年間パスポートが家族分で約9万円。外食代やレジャー費も祖父母負担になることが増えていきました。年間の支出を計算すると、孫関連だけで60万円を超えていました。
「頼まれたことはないんです」
和子さんはそう話します。
「娘たちからお金を出してほしいなんて言われたことは一度もありません。でも、若い人たちは大変じゃないですか。住宅ローンもあるし、これから教育費もかかるでしょう。だったら私たちが出してあげればいいと思っていました」
実際、娘夫婦の世帯年収は900万円近くあり、生活に困っていたわけではありません。それでも高橋夫妻は、孫にお金を使うことをやめられなかったのです。
「孫が頼ってくれるのは、今しかないから」 その言葉を何度も自分たちに言い聞かせていました。総務省『家計調査 家計収支編(2025年平均)』によると、高齢夫婦の無職世帯の可処分所得は月22.2万円。対して消費支出は月26.4万円。毎月4.2万円の赤字となり、不足分を貯蓄で補っている状況です。
高橋夫妻も、気づかないうちにその状態に近づいていました。