潤沢な蓄えがあるはずの世帯でも、予期せぬ落とし穴によって老後設計が揺らぐケースは少なくありません。たとえば、良かれと思って行った「家族への配慮」。ある男性のケースから、将来への備えと子への支援をどう両立させるべきか、考えていきます。
〈退職金2,200万円〉〈年金月20万円〉60代夫婦「これで一生安泰だ」のはずが、70歳目前に「1,000万円の出費」。兄弟平等が招いた「老後破産」の危機 (※写真はイメージです/PIXTA)

兄弟平等が招いた老後破産危機

千葉県内の大手メーカーに勤めていた鈴木義明さん(69歳・仮名)。60歳の定年時に受け取った退職金は2,200万円でした。再雇用制度を利用し、65歳で完全に引退。月20万円弱の年金で妻・陽子さん(60歳・仮名)との生活費はまかない、退職金は老後、万一のときの保険のようなものと考えていました。

 

「ただ、いまでは退職金は半分程度になっています」

 

何が起きたのでしょうか。最初の転機は、さかのぼること13、14年ほど前のこと。都内のIT企業に勤める長男(当時35歳)が、マイホームの頭金として援助を求めてきたのです。

 

「長男は『今しか買えない』と熱心でした。国が住宅取得資金の贈与を非課税にしている制度のことも調べてきていて。私は、親として背中を押してやりたいと考えました」

 

2009年から始まった住宅取得等資金の贈与税の非課税制度。当時、良質な住宅に対する非課税限度額は1,500万円だったといいます。義明さんは長男に1,000万円の贈与を行いました。

 

「長男家族に、できる限りの援助をしてあげたいと思って、当時、老後資金として貯めていたお金の多くを渡しました。このあと退職金も入るし、会社員人生のなかで給与もピークに達しているとき。贅沢しなければ問題ないだろうと思っていたんです」

 

それから10年後。今度は、10歳ほど年の離れた次男(33歳)が、マイホーム購入を検討し始めます。

 

「次男は私たちに何も言ってきませんでした。70歳手前の年寄りに援助を求めるのは……と遠慮したのでしょう。しかし兄に1,000万円の援助を行ったことを耳にしたら、きっと嫌な思いをする。兄弟に差をつけるわけにはいかないと、私たちから援助を申し入れたんです」

 

こうして、次男にも1,000万円の援助を行うことを決めた義明さん。その後も何かにつけて、子や孫に対して援助を行っていくと、退職金は7割ほどなくなってしまいました。

 

「私たちはこれから、病院だ、介護だとお金のかかる年齢。住まいも住み続けるなら建て替えるか、それとも施設に入るか、いろいろと考えないといけない。そうすると、お金がいくらあっても足りないですよ」と義明さん。「子どもたちにいい顔をしすぎたのかもしれません。計算が甘かった……」と唇をかむしかありません。