国立社会保障・人口問題研究所による『日本の世帯数の将来推計(全国推計)2020(令和2)~2050(令和12)年』によれば、2050年には全世帯の約4割が「単身世帯」になると予測されています。かつて「1人の老後」は孤独やリスクの象徴でしたが、経済的基盤を持つ現代のシニアにとって、それは「24時間365日の自由」を意味します。夫婦としての経済的・教育的任務をすべて終えたとき、あえて法的関係を解消し、それぞれの人生を生き直す。それは単なる決別ではなく、30数年間の共闘を経て、互いを「夫・妻」という役割から解放する究極の敬意かもしれません。良好な関係だからこそ選べた、現代的な「解散」とは。※本記事で紹介する事例はすべて仮名で記載しています。
「お茶のみ友達」のような関係性でした…もう何年も“凪”状態の結婚39年・65歳共働き夫婦。お互いなんの不満もなかったが、「退職金計5,200万円」をもらった直後に熟年離婚したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

離婚のコストと、老後大切にしたいものを天秤にかけて…

娘は「仲が悪いわけでもないのにどうして別れるの? 離婚届を出したり、家を売ったり、そんな面倒な思いをしてまで別れなくても」と食い下がりました。確かに、離婚による住居の移転や名義変更の手続きは多大な労力を伴います。しかし、2人の計算は明快でした。

 

明治安田生命の調査(2023年)では、60代の夫婦が抱える不満のトップは「生活面での細かなズレ(32.6%)」です。また、男性は「ひとりの時間がとれない(14.4%)」ことに、女性は家庭内の細かな管理負担に、潜在的な不満を感じやすい傾向があります。タカミチさん夫婦にとって、離婚の手間は「一回限りのコスト」に過ぎませんでした。

 

一方で、得られるメリットは「これからの人生20〜30年における、24時間365日の完全な自由」です。

 

将来的な介護問題は?

娘が最後に投げかけたのは、最も切実な疑問でした。「いまは元気でも、これから先、介護や病気になったらどうするの? 2人でいれば助け合えるのに」。

 

この問いに対しても、2人の答えは準備されていました。

 

「お互いに助け合うことを前提に添い遂げるのは、裏を返せば、相手に老後の面倒を強制することにもなりかねない。私たちはそれを望んでいないの」

 

2人には、合わせて5,200万円の退職金と、それぞれが受給する厚生年金があります。

 

経済的な解決:介護が必要になれば、その資金を使ってプロのサービスや施設を気兼ねなく利用できる。

相手への尊重:長年連れ添ったパートナーだからこそ、身体が衰えた姿を日常的にさらしたり、排泄や入浴の介助を強いたりすることを避けたかった。

責任の分離:どちらかが病に倒れたとき、もう1人が共倒れになるのではなく、それぞれが自分の資産で最善の医療とケアを受ける。

 

2人は「結婚を老後の保険にしない」という共通の考えがあったのです。経済的に自立しているからこそ、相手を「老後の世話役」として拘束するのではなく、すべてを自分の責任で自由に決めることが、39年間の感謝を込めた最後の誠実さという価値観で一致していました。

 

「残された時間は、もう誰かのパートナーとしてではなく、ただのタカミチ、ただのチヅルとして使い切りたい」その一貫した論理の前に、娘も最後には「お父さんたちらしいね。もう好きにしたら」と苦笑いして引き下がるしかありませんでした。

多様化する老後の生き方

39年間、協力して一つの家庭を運営してきたことへの感謝はありましたが、それを「死が2人を分かつまで」続ける義務感は、2人のあいだにはもう残っていませんでした。

 

現在、2人は別々の街で暮らし、それぞれの時間を過ごしています。マンションを売却した資金と退職金を手に、タカミチさんは静かな郊外へ。チヅルさんは利便性の高い都心の小規模なマンションへ。離婚後、時折連絡を取り合ってランチをすることもあります。

 

かつての夫婦関係よりも、いまのほうが「相手の健康を純粋に願える」と2人は口を揃えます。不満がないからこそ、別れる。5,200万円という潤沢な資金は、彼らにとって老後の安心ではなく、「1人の人間に戻るためのコスト」として、最も有効に活用されたのかもしれません。

 

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