(※写真はイメージです/PIXTA)
話し相手もいない部屋で直面した「老後破綻」の現実味
一人になった部屋は、驚くほどの手間を要しました。ゴミの分別方法すら把握しておらず、ゴミ箱にはたくさんのゴミが、台所には汚れが、洗濯機には洗濯物が溜まっていく。なにより堪えたのは、スマートフォンの通知が、カード利用のお知らせや広告以外に一つも鳴らないことでした。
連絡先には、仕事関係の番号は多いものの、退職したいま、自分から気軽に連絡をとれる相手が一人もいません。現役時代はゴルフや会食が趣味だったものの、すべて会社の経費や人間関係に紐付いたものであり、自腹で、かつ一人で楽しめるものもなにひとつありません。
月15万円の年金。それは、都会の片隅で誰とも会話せず、ただ生きていくだけのお金でした。最近、追い打ちをかけるように、マンションの修繕積立金の値上げが通知されました。ヒデカズさんは、自分が築き上げてきたと思っていた「幸福な老後」が、実はいかに脆弱な砂上の楼閣であったかを、一人になってようやく理解したのです。
熟年離婚と年金分割の増加
厚生労働省「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、離婚による年金分割の実施件数は制度開始以来、高い水準で推移しています。特に「合意分割」の浸透により、専業主婦期間が長い世帯ほど、離婚後の夫側の受給額減少が生活に直結する状況があります。
内閣府「令和3年版 高齢社会白書」等の意識調査では、近所付き合いが「ほとんどない」と回答する割合は、女性よりも男性のほうが優に高く、特に単身世帯の男性においてその傾向が顕著です。仕事以外のコミュニティを持たないまま定年を迎えることが、そのまま「孤独死予備軍」となるリスクを示唆しています。
総務省「家計調査(2024年平均)」によると、高齢単身無職世帯の月平均支出は約15万7,000円。年金分割後のヒデカズさんの受給額(15万8,000円)は、住居費等の固定費が高い都市部では、突発的な医療費や修繕費に対応できない、極めて予断を許さない水準です。
かつての名刺も、役職も、家族を養っているという自負も、一人になった部屋ではなんの助けにもなりませんでした。ヒデカズさんに残されたのは、支払いが続くマンションの維持費と、自分を必要としない家族の記憶だけでした。
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