世の中には、知っている人だけが得をする「裏技」のような話が溢れています。「世帯分離をして親を非課税世帯にすれば、介護費用が劇的に安くなる」66歳のユウスケさん(仮名)も、数年前まではその「裏技」を使いこなした気になっていた一人でした。しかし介護現場は、そんな「にわか困窮者」を許容するほど甘くありません。真に支援を必要とする人々のための椅子を奪おうとしたツケとは。
「非課税世帯になんてならなければよかった」狙って勝ち取った〈住民税0円〉、役所から届く“ピンク色の封筒”に歓喜していたが…89歳母の老人ホーム入居時、制度の隙間を突いた66歳息子が大後悔したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

世帯分離はちょっとした裏技のつもりだった…

ユウスケさんが世帯分離を行ったのは、89歳の母との同居を始めた5年前のことです。「同じ屋根の下にいても、生計が別なら世帯はわけられる」という知識をネットで仕入れ、役所の窓口で手続きを済ませました。

 

狙いどおり、母は「住民税非課税世帯」となり、自治体からは数々の恩恵が舞い込みました。無料のゴミ袋引換券、インフルエンザワクチンの公費助成、そして数回にわたる「物価高騰対策」の現金給付金……。

 

「役所から届くピンク色の封筒(給付金の案内)を開くたび、ちょっとしたお小遣いをもらっているような気分でした」

「通帳のコピー」を突き返された日

しかし、その「裏技」は、母に認知症の兆候が現れ、特別養護老人ホーム(特養)への入居を申し込んだ際に崩壊します。

 

ユウスケさんが頼りにしていたのは、非課税世帯なら施設での食費や居住費が数万円単位で安くなる「補足給付」という制度です。しかし、窓口で提示されたのは、所得証明ではなく「母の全口座の預貯金残高」の開示でした。

 

厚生労働省は、介護保険制度の公平性を保つため、2021年(令和3年)から施設入居時の食費・居住費の補助(補足給付)の判定基準を大幅に厳格化しました。ここで重要視されるのは「所得」ではなく、「預貯金等の資産」です。母の口座には、亡き父が残した生命保険金900万円と貯金600万円がありました。

 

「非課税世帯だから安くなるんですよね?」と問いかけるユウスケさんに、担当者は事務的に答えました。

 

「住民税がゼロでも、資産が500万円(単身の場合の基準例)を超えている方は、一般の方と同じ全額負担です」

 

補足給付(特定入所者介護サービス費)の資産限度額(単身)

第1段階:預貯金等 1,000万円以下

第2段階:預貯金等 650万円以下

第3段階の1:預貯金等 550万円以下

第3段階の2:預貯金等 500万円以下

第4段階(補助なし):住民税課税世帯、または資産が上記を超える場合

 

制度の本来の趣旨である「貯金も所得もなにもない人のための救済」という枠組みから、ユウスケさんの母は、その資産額ゆえに弾き出されたのです。