(※写真はイメージです/PIXTA)
世帯分離はちょっとした裏技のつもりだった…
ユウスケさんが世帯分離を行ったのは、89歳の母との同居を始めた5年前のことです。「同じ屋根の下にいても、生計が別なら世帯はわけられる」という知識をネットで仕入れ、役所の窓口で手続きを済ませました。
狙いどおり、母は「住民税非課税世帯」となり、自治体からは数々の恩恵が舞い込みました。無料のゴミ袋引換券、インフルエンザワクチンの公費助成、そして数回にわたる「物価高騰対策」の現金給付金……。
「役所から届くピンク色の封筒(給付金の案内)を開くたび、ちょっとしたお小遣いをもらっているような気分でした」
「通帳のコピー」を突き返された日
しかし、その「裏技」は、母に認知症の兆候が現れ、特別養護老人ホーム(特養)への入居を申し込んだ際に崩壊します。
ユウスケさんが頼りにしていたのは、非課税世帯なら施設での食費や居住費が数万円単位で安くなる「補足給付」という制度です。しかし、窓口で提示されたのは、所得証明ではなく「母の全口座の預貯金残高」の開示でした。
厚生労働省は、介護保険制度の公平性を保つため、2021年(令和3年)から施設入居時の食費・居住費の補助(補足給付)の判定基準を大幅に厳格化しました。ここで重要視されるのは「所得」ではなく、「預貯金等の資産」です。母の口座には、亡き父が残した生命保険金900万円と貯金600万円がありました。
「非課税世帯だから安くなるんですよね?」と問いかけるユウスケさんに、担当者は事務的に答えました。
「住民税がゼロでも、資産が500万円(単身の場合の基準例)を超えている方は、一般の方と同じ全額負担です」
補足給付(特定入所者介護サービス費)の資産限度額(単身)
第1段階:預貯金等 1,000万円以下
第2段階:預貯金等 650万円以下
第3段階の1:預貯金等 550万円以下
第3段階の2:預貯金等 500万円以下
第4段階(補助なし):住民税課税世帯、または資産が上記を超える場合
制度の本来の趣旨である「貯金も所得もなにもない人のための救済」という枠組みから、ユウスケさんの母は、その資産額ゆえに弾き出されたのです。