国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2024年推計)」によれば、現在、高齢者世帯に占める「単身世帯(独居)」の割合は増加の一途を辿っています。特に、かつて「標準世帯」と呼ばれた夫婦と子供の世帯が減少し、ヒデカズさんのような「単身高齢男性」が、身近に頼れる親族を持たないまま都市部で孤立する問題が深刻化しています。本記事では、熟年離婚によって単身高齢者となったヒデカズさんの事例から、高齢期の「経済的困窮と孤独」の二重苦をみていきます。
「お母さんは、ずっと待っていたんだよ」…66歳元エリート夫、娘から聞かされた「家出妻」の衝撃伝言。ネット口座に振り込まれた「年金31万6,000円」を見つめ、スマホを握りしめて一人流した涙 (※写真はイメージです/PIXTA)

ちょっとのあいだ頭を冷やすだけだと思っていた…

都内の分譲マンション。ヒデカズさん(66歳)は、誰もいないダイニングでスマートフォンのネット口座の画面を眺めていました。表示されているのは、年金振込予定額の通知画面。そこに記された数字は、現役時代の記憶からすれば、あまりに心もとないふた月分の年金額年金31万6,000円でした。無慈悲な現実に思わず目から涙があふれてしまいます。

 

10歳年下の妻・ルミ子さんが「しばらく距離を置きます」と書き置きを残して家を出てから1ヵ月。一時的な別居だと思っていましたが、届いたのは弁護士を通じた「年金分割」を含む離婚協議の通知でした。

 

年金分割によって激減した老後の収入

現役時代、ヒデカズさんは大手企業の部長職として、定年まで勤め上げました。現役時代の年収は1,200万円を超え、家族には不自由をさせていない自負がありました。しかし、ルミ子さんが家を出たあとのクローゼットや引き出しは、ずっと前から準備されていたかのように整然と空になっていたのです。

 

離婚に伴う年金分割により、ヒデカズさんの厚生年金報酬比例部分は分割され、彼の手元に残る受給額は大幅に減りました。

 

分割前の見込み額: 約22万円

分割後の受給額: 約15万8,000円

 

ここからマンションの管理費、修繕積立金、固定資産税の按分を差し引くと、自由に使える金は月8万円程度です。退職金とこれまでの預貯金も財産分与で半分になりました。

 

「俺が稼いだ金でこの家を買ったのに、なぜ俺の老後がこれほど窮屈になるんだ」

 

ヒデカズさんが感じたのは、怒りよりも、虚無感でした。

娘から届いた妻の伝言

仲裁を求めて一人娘のナナさん(28歳)に電話をかけましたが、応答はありません。数時間後、短めのメッセージが届きました。

 

「お母さん、ずっと待ってたんだよ。私が自立して、お父さんが定年を迎えるのを。お父さんは家を『自分が稼いだ金で買った場所』と思ってたかもしれないけど、お母さんにとっては、お父さんの機嫌を伺いながら生きる場所だったの。私も、お父さんと最後にゆっくり話したのがいつか思い出せない。お父さんには、もう誰もついていかないよ。お母さんは自分の人生を取り戻しに行っただけだから、邪魔しないで」

 

ナナさんの言葉には、怒りよりも諦めが滲んでいました。ヒデカズさんは、自分が家族の中心にいると思っていましたが、実際には「経済的な供給源」としてのみ存在を許されていたに過ぎなかったのです。