定年を機に、退職金を元手に「経営コンサルタント」として独立開業したA太さん(60歳・男性)。現役時代は大手メーカーの営業部長として広い人脈を持ち、「個人の名前でも仕事が取れる」と自信満々でしたが、会社の看板がなくなった途端に見込み客はゼロに。見栄を張って借りたオフィスの家賃で老後資金をじわじわと削られ、妻に誤魔化しながら不安な毎日を送るシニアの起業事例を紹介します。
「妻には誤魔化しています」〈退職金2,500万円〉で独立した60歳元営業部長…立派なオフィスで「1日中ネットサーフィン」して過ごし、減り続ける老後資金に絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

見栄とプライドで赤字を隠す夫、減り続ける老後資金に恐怖

会社の看板がいかに大きかったかを痛感したA太さんでしたが、プライドが邪魔をして地道な新規開拓や下請けのような仕事ができません。

 

結局、毎日のように誰も来ないオフィスへ通い、ネットサーフィンをして時間を潰すだけの生活が続きます。

 

売上がまったくないにもかかわらず、数十万円のオフィス家賃と、見栄のための交際費が確実に毎月口座から引き落とされていきます。焦りを感じながらも、A太さんは家族に本当のことがいえません。

 

「妻には『今月も新しい顧問契約が取れそうだ』と誤魔化しています。でも、通帳の残高はみるみる減っていて……不安しかありません」

 

「手をつけない」の退職金は、すでに生活費や経費の補填で500万円以上も目減りしてしまいました。このままでは老後資金が底をつくのは時間の問題です。

 

「みっともなくて、いまさら会社を畳むなんていえません……長年の経験さえあればすぐに稼げると思っていた、見通しの甘さを悔やんでいます。初心に返って、地道にコツコツやっていくしかないです」

定年後の独立・起業を選ぶシニア層の実態と老後資金のリスク

内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」によると、60〜64歳男性の76.0%が収入を伴う仕事をしています。その就業形態を見ると、男性就業者の24.1%が「自営業主・個人事業主・フリーランス(家族従業者を含む)」として働いており、一定数のシニアが独立という働き方を選択していることがわかります。

 

現在の仕事を始めた時期については、「60〜64歳ころ」と答えた人が18.0%、「65〜69歳ころ」が12.3%となっており、定年退職前後のタイミングで新たなビジネスやフリーランスとしての活動をスタートさせるケースは少なくありません。

 

収入を伴う仕事をしている主な理由としては「収入のため」が55.1%で最も高く、老後の生活資金を稼ごうという意識がうかがえます。しかし、起業や独立が必ずしも順調に軌道に乗り、経済的な安定をもたらすとは限りません。

 

また、同調査によると、日常生活において収入より支出が多くなり、これまでの預貯金を取り崩してまかなうことが「よくある」「時々ある」と答えた人は、全体で61.2%にのぼります。60〜64歳の層においても、60.7%の人が預貯金を取り崩しながら生活している実態がうかがえます。

 

A太さんのように退職金を元手にオフィスを無計画に借りたり経費をかけすぎたりすれば、事業による収入(売上)がない状態では、あっという間に老後資金が底をついてしまう危険性があるでしょう。

 

[参考資料]
内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果」