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離婚届を残し別居、14年の空白
会社にも家庭にも居場所を失った夫は、自らもサインした離婚届を家に置いたまま家を出ました。
A子さんは世間体を気にして失踪届を出しませんでした。自身の言動への反省もあったのか、離婚届も提出せずに放置。しかし、自ら探しに行くこともしませんでした。やがてビジネスに陰りがみえ、会社を畳んで自営業として細々と暮らすようになっても、彼女は意地を張っていました。
「こうなったら意地でも離婚しない。女ができても再婚なんてさせない」
夫が出会った最期の安らぎ
一方、家を出た夫は自暴自棄になっていました。一時は人生を終わりにしようかとも考えましたが、昔、友人と行った旅行先や出張で行ったことのある思い出の地を巡り、最後にたどり着いたのは自分の生まれ故郷。かつて実家があった場所はもう誰もいなくなり、公園となっていました。そこでぼんやりと佇んでいると、「もしかして、お兄ちゃん?」と40半ばの女性に声をかけられたのです。
それは、幼馴染のB子さんでした。「よくわかったね」というと、彼女は「雰囲気と顔のほくろでわかるわよ」と答えます。B子さんは、隣町へ嫁ぐも夫に先立たれ、実家のおでん屋を継いだそうです。「お兄ちゃんもときどき食べにきてたでしょ。両親も亡くなったけど私がまだやってるのよ。開店前だけどいまからいらっしゃいよ」と、傷ついたA子さんの夫を優しく迎え入れました。30年ぶりの再会で盛り上がり、B子さんに子どもがいないこともあってか、A子さんの夫はそのうち居着くようになります。
夫は、自分が残してきた離婚届はすでにA子さんによって提出され、法的に独り身になったと思い込んでいました。過去を断ち切り、B子さんと新しい人生を歩むことを決意した彼は、夜間警備の仕事に就き、彼女と穏やかで幸福な13年間を過ごしたのです。
突然の別れ
A子さんにとってはただただ時間だけが流れ、64歳になっていました。A子さんの夫は68歳。その冬、突然の悲劇が訪れます。
長時間の立ち仕事とヒートショックが重なり、A子さんの夫は仕事中に倒れ、病院に救急搬送されました。翌日、帰宅しない彼を心配して、警備会社に連絡したB子さんは病院に駆けつけましたが、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
しかし、警備会社が古い履歴書の緊急連絡先をもとに連絡したのは、一人息子でした。数時間遅れで息子に伴われて病院に現れたのは、法律上の妻であるA子さん。二人は病院で初めて顔を合わせます。
「葬儀は息子を喪主としてこちらで行います」冷然と言い放つA子さんと、事実上の妻として尽くしてきたB子さん。二人は葬儀の段取りを巡って衝突しましたが、結局、戸籍を持つA子さん側が主導権を握り、B子さんは悔し涙を呑む結果となりました。
「彼は『離婚した』と言っていた。13年も一緒に暮らし、最期を看取った私が、なにもかも奪われるのは悔しい」納得のいかないB子さんは、遺族年金の受給権を巡って争う決意をしました。