厚生労働省の調査によると、日本の男性の平均寿命は約81歳ですが、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる「健康寿命」は約72歳。つまり、人生の晩年において「約9年間」は不健康な状態で過ごすことになります。若いうちに無理を重ね、自らの身体をすり減らして働き続けた結果が、この数字に表れているのかもしれません。今回は、大手企業を勤め上げ、現在は嘱託社員として働く60歳男性の事例から、後払いになる健康負債の恐ろしさについて解説します。
家族のためにカフェインまみれで仕事に邁進した60歳嘱託社員の末路。退職金2,600万円を手にしても「妻からは無視、娘にはLINEブロック」…心をぽっきり折った「トドメの健康診断」 (※写真はイメージです/PIXTA)

エナジードリンクとブラックコーヒーで乗り切った現役時代

都内の大手企業で営業として働いていたユタカさん(仮名/60歳)。今年、定年退職を迎え、退職金2,600万円を手にしました。現在は同じ会社で嘱託社員として再雇用され、現役時代の半分の給与で週4日勤務をしています。

 

ユタカさんの現役時代は、まさに「仕事一筋」でした。特に彼が30代後半から40代にかけての時期は、中間管理職として板挟みにあいながら猛烈なタスク量と深夜残業の連続でした。

 

朝はブラックコーヒーを胃に流し込み、夕方に疲れが出始めたらエナジードリンクをあおって深夜まで働いていました。日によっては1日10本以上飲むことも。厚労省が推奨するカフェインの摂取上限(1日400mg、コーヒー約3〜4杯分程度)を遥かに超える量を日常的に摂取し、脳を強制的に覚醒させていたのです。

 

「徹夜明けの出張なんてザラでした。でも、『俺が家族の生活を支えているんだ』という自負が、あの過酷な日々を乗り切る原動力でした」

 

土日は泥のように眠るか、接待ゴルフ。娘たちの運動会や授業参観には参加できず、家庭のことはすべて妻に任せきり。それでも、毎月しっかり家にお金を入れ、家族への責任は果たしていると思っていました。ボーナスで行った家族旅行はユタカさんにとってかけがえのない思い出です。

妻の無視と子どもからのLINEブロック

定年を迎え、老後資金もそれなりに貯めたし、これからは嘱託社員として仕事のペースを落とそうと決めました。残業もなくなり、夕方には帰宅できるように。ゆっくり家族との時間を楽しむつもりだったユタカさんですが、家庭内にはひんやりとした空気が流れていました。

 

妻はユタカさんが帰宅すると、食事の用意だけを済ませてサッと自室に引き上げてしまいます。話しかけても「ええ」「そうね」と視線を合わせず、必要最低限の会話しか生まれません。波風を立てるわけではないものの、明確な「心の壁」を感じる家庭内別居状態でした。

 

妻の態度に腹を立てたユタカさんは、すでに独立して家庭を持っている子どもたちにLINEを送りました。「お父さんも時間ができたから、今度孫を連れて遊びに来なさい。美味しいものでもご馳走するぞ」。しかし、何日経っても既読すらつきません。

 

妻に聞いてみると、衝撃の事実を告げられます。

 

「やっと気がついたのね。あなた、LINEをブロックされてるのよ」


「……は? なんで?」

 

「忘れたの? 半年前、あなたの還暦と定年のお祝いをしたときのこと」

 

半年前、家族全員が集まった食事会で、「転職したいんですよ」といった娘の夫に向かって「いまの若い奴は甘い。俺の時代は何日も徹夜したもんだ」と説教を始めました。みかねた長女が「せっかくのお祝いなんだから、そういう話はやめてよ」とたしなめると、ユタカさんはヒートアップ。「誰の稼いだ金で大学を出られたと思ってるんだ! 俺のおかげでお前らは何不自由なく暮らせたんだろうが!」と怒鳴り散らしたのです。

 

「あの子たちにはもう、自分の守るべき家庭と生活があるの。たまに会えば苦労をひけらかして、お金を盾に威圧してくるお父さんなんて、孫の教育にも悪いからもう関わりたくないって。あの食事会の帰りにブロックしたそうよ」

 

ただ静かに「家族の輪に入っていない」という事実を突きつけられました。家族のために頑張ってきたはずが、子どもたちにとって自分は「お金の力で人を支配しようとする、怒りっぽい厄介者」でしかなかった――。ユタカさんは反論の言葉もみつかりません。なによりゾッとしたのは、その話をいまのいままで忘れていたということです。