昨今、資産運用によって早期リタイアを実現する「FIRE」が注目を集めていますが、その裏側では、計画の破綻や甘い見通しから実家に依存するケースも散見されます。自由を求めたはずの決断が、家族共倒れの危機を招く――。ある親子のケースを通じ、FIREの理想と過酷な現実を見ていきましょう。
「いつまでいるんだろう…」37歳長男の〈FIRE宣言〉から3ヵ月。実家に居座り、生活費も入れない息子を前に、65歳父が抱いた〈老後崩壊〉の恐怖 (※写真はイメージです/PIXTA)

FIREという名の「実家依存」へ転落した37歳息子の実態

神奈川県在住の田中弘之さん(65歳・仮名)は、この数ヵ月、言いようのない不安に襲われています。その原因は、昨年末に大手外資系企業を退職して実家に戻ってきた長男・雄太さん(37歳・仮名)の存在です。

 

雄太さんはトップクラスの私立大学を卒業後、都内のコンサルティング会社で10年以上勤務し、年収は1,200万円を超えていました。退職を決めた際、弘之さんにこう説明したといいます。

 

「不労所得で暮らしていける。FIREだ、FIRE。もう我慢して働く必要はないんだ」

 

仕事による極度のストレスもあったのでしょう。そこから解放されたいという息子の願いを、弘之さんは快く受け入れました。しかし、実家での生活が3ヵ月を過ぎたころから、状況は一変します。

 

雄太さんは昼過ぎまで自室から出てこず、食事の時間だけリビングに現れます。服装は一日中パジャマのままで、手元のスマートフォンで株価チャートを確認するか、ネットの掲示板に持論を書き込んでは、ブツブツと文句を言っているのです。

 

「最初は、長年の疲れがたまっているのだと思っていました。ですが、今の姿は単なる無職の同居人です」

 

弘之さんが最も困惑しているのは、雄太さんが生活費を一切入れないことです。食費や光熱費に加え、国民年金への切り替え手続きを放置していたため、督促状が届いた際の保険料も弘之さんが立て替えました。

 

「生活費の話を切り出すと、『資産を切り崩したら複利の効果がなくなる。親なら応援してくれてもいいだろう』と不機嫌になり、自室に閉じこもってしまうのです。本来のFIREは経済的自立を目指すものですよね。今の息子の姿は、本当にFIREと呼べるのでしょうか」