高齢の親が年金で中高年の子の生活を支える「8050問題」。引きこもりという閉ざされた家庭環境のなか、親の支えの裏で思いもよらぬ裏切りが進行していることもあります。ある母・息子のケースから、親子が共倒れを回避するための支援の在り方をみていきます。
「誰がこんなに引き出したのよ!」<年金13万円>82歳母、ATM前で大混乱。銀行員から突き付けられた「まさかの犯人」に絶句 (※写真はイメージです/PIXTA)

ATMの履歴が暴いた家族の裏切り

都内在住の佐藤和子さん(82歳・仮名)。大手銀行のATMコーナーで、記帳を終えたばかりの通帳を見ながら手が震えていました。

 

「誰がこんなに引き出したのよ! まったく覚えがないわ」

 

騒ぎに気づいた行員が、佐藤さんを相談ブースへと誘導し、詳細を聞くことにしました。

 

「佐藤さんは椅子に座るなり、私に通帳を突き出しました。『見てください。今月だけで15万円も、身に覚えのない引き出しがあるんです。泥棒が入ったに違いありません。すぐに警察へ届けてください』と、ひどく動慮されていました」

 

正直、はじめは認知症などを疑ったといいますが、話をしている限り、そのような様子は見受けられませんでした。過去数ヵ月分の取引履歴を精査したところ、数日おきにATMから3万円、5万円と現金が引き出された記録が並んでいました。引き出しが行われたのはすべて平日の日中です。そこで佐藤さんに確認を求めました。

 

「お客様、カードはいつもどこに保管されていますか?」

「仏壇の引き出し。私以外、誰も触らないはず」

「では、暗証番号をどなたかに教えたことはありますか?」

 

佐藤さんは一瞬、言葉を詰まらせたのち、同居する長男・雄一さん(56歳・仮名)の存在を口にしました。雄一さんは40代半ばで離職して以来、10年以上にわたり一度も就労していません。佐藤さんが受給する年金は月13万円。この金額で、雄一さんの生活のすべてを賄ってきました。

 

「息子には……何かあったときのためにと教えた記憶があります。でも、あの子はずっと部屋に引きこもっていて、ここ何年も、外出するのは見たことがありません」

 

「まさか」といった様子で話す佐藤さん。一方、銀行員は「引き出しはすべてご自宅から最寄りのATMで行われています。正しい暗証番号での取引である以上、当行としては盗難ではなく、身内の方による利用の可能性を疑わざるを得ません」と告げました。

 

10年間、自分がいなければ生きていけないと思っていた息子が、自分の知らないところでカードを持ち出し、小遣いとして年金を削り取っているかもしれない――。想定外の出来事に、佐藤さんは言葉を失い、茫然としていたといいます。