親の介護という突然の事態に直面したとき、多くの現役世代が頼りにするのが「介護休業」という制度。しかし、制度上の給付金があるからと安心していると、思わぬ事態にさらされるかもしれません。仕事と介護を両立させるためには、単に休むだけでなく、自分たちの生活をどう守るか、という視点が必要です。ある男性のケースを通して、働き盛りの世代が直面する介護問題と経済的なリスクについてみていきます。
「手取り月41万円が22万円に…」介護休業をとった52歳課長の誤算。復帰後「よもやの収入減」に絶望 (※写真はイメージです/PIXTA)

「67%支給」の落とし穴…手取りを押し下げる複合要因

田中さんのケースを整理すると、以下のようになります。

 

● 休業前手取り:約41万円(額面:約55万円)

● 介護休業給付金(額面):約37万円

● 社会保険料・住民税等を差し引き → 実質的な手元資金:約22万円

 

結果として、可処分所得はおよそ半分近くまで低下します。一方で、住宅ローンや教育費などの固定支出は維持されるため、家計は短期間で破綻しやすい仕組みにあるのです。

 

この問題は、個人の見通しの甘さだけではなく、日本社会全体が抱える「介護と就労の両立の難しさ」に起因しています。総務省『就業構造基本調査(2022年)』によると、家族の介護・看護をしながら働いている人は約365万人。一方で、介護や看護を理由に離職する人は年間約10万人規模で推移しており、特に40代後半から50代にかけての現役世代に集中しています。

 

さらに、内閣府『2025年版(令和7年版)高齢社会白書』では、要介護認定者数は増加傾向が続いており、2020年代半ばには約700万人規模に達するとされています。高齢化の進展により、今後も介護を担う現役世代は確実に増える見通しです。

 

問題は、こうした状況に対して家計側の備えが追いついていない点にあります。厚生労働省『仕事と介護の両立支援に関する実態把握調査』でも、両立における最大の不安として「経済的負担」を挙げる人が多く、制度が存在しても実際の生活防衛には十分でない実態が浮かび上がっています。

 

また、介護に伴う支出は一時的なものにとどまりません。住宅改修費や福祉用具の導入費用、サービス利用料など、継続的な支出が発生します。これに対し、収入は休業によって一時的に減少するだけでなく、田中さんのように復帰後も残業代の減少などで回復しきらないケースも散見されます。

 

こうした状況が積み重なった結果、介護離職という苦渋の選択に至るケースも少なくありません。経済産業省の試算では、介護離職による経済損失は年間約6,000億円規模に達するとされています。これは個人の問題にとどまらず、労働力の喪失という形で社会全体に深刻な影響を及ぼしています。

 

介護休業は確かに重要な制度ですが、それは「生活を維持するための所得補償」ではなく、あくまで「体制を整えるための時間を確保する仕組み」です。この前提を見誤ると、制度利用そのものが家計悪化の引き金になりかねません。

 

だからこそ、介護休業の「使い方」が問われます。限られた期間を介護に専念する時間と捉えるのではなく、地域包括支援センターやケアマネジャーと連携し、外部サービスを組み込んだ「持続可能な体制」を整える期間として活用できるか。その判断が、その後の生活の安定を左右するのです。