(※写真はイメージです/PIXTA)
母の介護を機に56歳で早期退職
「母の介護が必要になったことを機に、56歳で退職して地方の実家に帰りました。ある意味、仕事を辞めるいい口実だったのかもしれませんね」
穏やかな表情でそう語るのは、今年65歳を迎えたMさん。独身のMさんが早期退職を決断した56歳当時、手元には現役時代に貯めた預貯金と退職金を合わせて約4,300万円の資産がありました。
「まとまったお金も入ったことだし、もう無理して都会で働く必要はないと仕事に見切りをつけました」
それから約9年間、Mさんは実家で母親と生活を送りました。日々の介護費用や食費の大部分は、母親が受け取る年金で賄うことができたといいます。
「実家なので家賃はゼロですし、スマホも退職を機に格安SIMに乗り換えました。月の固定費は全然かからなかったですね」
仕事の付き合いがなくなり、行動範囲も狭まったことで、交際費や外食費などの雑費も激減。Mさんと母親の二人の生活費は、年間でもわずか200万円程度というローコスト生活でした。
資産が減っても焦らない、気楽な年金生活へ
「先日、ついに母を見送りました。最初は胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感がありましたが、少しずつ落ち着いてきました」
母が亡くなったことで介護生活が終わり、Mさんの手元に残った資産は約1,600万円。そこに退職前からコツコツと続けていた投資の利益300万円を合わせた1,900万円が、現在の全財産です。退職時の4,300万円からは半分以下に減ってしまいましたが、Mさんに焦りはありません。
「今年から月14万円の年金がもらえています。月に数万円の生活費でずっと暮らしてきた私にとって、この年金と1,900万円の貯金があれば経済的な不安はありません」
今は静まり返った実家で、一人暮らしをしています。子供のころから変わらない縁側から見える庭の風景を眺めるMさんの表情は、不思議と穏やかです。退職時に購入した車も、ほとんど乗る機会がなく走行距離はごくわずか。それがいかに平穏で変化の少ない生活であったかを物語っています。
「同級生たちは、65歳を過ぎた今でも再雇用で必死に働いています。でも私は、満員電車や通勤渋滞なんてもう絶対に体験したくありません。これからは自分のためだけに、のんびりと時間を使っていきます」
資産の減少を許容しながらも、徹底した支出管理と身の丈にあった生活を守り抜いたMさん。早期退職と親の介護というハードルを乗り越え、誰にも縛られない自由な老後を満喫しています。
退職金とローコスト生活で乗り切る「介護離職」
Mさんのように、ある程度の資産を確保したうえで、親の介護などを機に早期退職を選択し、そのままリタイア生活に入るシニアも存在します。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、単身世帯において老後の生活費の収入源に「就業による収入」を挙げる人は37.5%にとどまり、多くが「公的年金(53.6%)」や「金融資産の取り崩し(23.8%)」に頼って生活しています。
親の介護などを機に、想定よりも早く労働収入が途絶えれば、資産の目減りが早まり、通常は老後破綻のリスクが高まります。しかし、Mさんの場合は企業の早期退職制度がセーフティネットとして機能しました。
東京商工リサーチの「2025年 上場企業『早期・希望退職募集』状況」によれば、2025年の上場企業による同募集人数は1万7,875人にのぼります。募集企業の約7割が業績の安定した黒字企業であり、手厚い割増退職金が用意されるケースが一般的です。
Mさんが自由な老後を手に入れられたのは、この退職金の額にあぐらをかくことなく、退職と同時に格安SIMへの変更やローコスト生活へと、家計を即座に最適化した点にあります。Mさんのように生活水準を適切にコントロールできれば、企業が募集する早期退職によって得られる退職金で、介護というライフイベントを乗り切ることができるでしょう。
[参考資料]
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
東京商工リサーチ「2025年 上場企業『早期・希望退職募集』状況」