長年勤めてきた会社を定年退職し、誰もが羨むような老後資産を手に、第二の人生を謳歌するはずだった――。しかし、意気揚々と銀行に足を運んだ男性に待ち受けていたのは、計算とはあまりにかけ離れた衝撃の現実でした。平穏な老後を前にした恐ろしい誤算と、資産管理の落とし穴に迫ります。
「冗談だろ、ゼロが足りない…」〈退職金3,600万円〉〈預貯金3,500万円〉60歳定年エリート、資産整理で手にした「残高証明書」に戦慄。安泰の老後が揺らぐ「致命的な誤算」 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年当日に突きつけられた「消えた3,000万円」の真実

「目を疑いました。ゼロが1つ足りないんです。何度も『冗談だろう』と呟きました」

 

都内の大手企業で営業部長を務めてきた佐藤亮さん(60歳・仮名)は、銀行窓口で差し出された一枚の書面を前に、言葉を失いました。本来、3,500万円はあるはずの預金が、わずか500万円にまで減っていたのです。定年退職から、わずか3日後の出来事でした。

 

佐藤さんは、いわゆる“逃げ切り”を確信していた世代でした。現役時代の年収は約1,400万円。住宅ローンは繰り上げ返済で完済済みです。退職金は約3,600万円が見込まれており、これまでの貯蓄3,500万円と合わせれば、老後資金は7,000万円を超える計算でした。

 

「運用で少し増やしながら、あとは取り崩せばいい。教科書どおりの老後を想定していました」

 

退職後、資産を整理しようと考え、久しぶりに銀行窓口で資産の全容把握のために残高証明の発行を依頼したことが、すべての始まりだったのです。

 

混乱する佐藤さんに、行員は過去数年分の取引履歴を提示します。そこには、数十万円から100万円単位の出金や振込が、ほぼ毎月のように繰り返されていた記録が残っていました。単発ではなく、数年にわたる継続的な資金流出です。合計額は3,000万円規模に上っていました。

 

「不正利用を疑いました。でも違ったんです。通帳もキャッシュカードも自宅にあった。第三者が関与した形跡はありませんでした」

 

帰宅後、妻の雅代さん(58歳・仮名)に確認すると、彼女はしばらく沈黙した後に口を開きました。

 

「あなたには、心配をかけたくなかったの」

 

資金の使途は、子どもたちへの支援でした。長男と次男の住宅購入に際し、1,000万円ずつの援助。さらに、離婚して戻ってきた長女には生活費や孫の教育費として、月30万円近い援助を数年間にわたり続けていたといいます。

 

「退職金が入れば、いずれ補えると思っていた」

 

淡々と話をする雅代さんに、佐藤さんは返す言葉を失いました。