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厳格な父親がスーパーの支払いで「800円」足りなかったワケ
中堅メーカーで働いていた佐藤弘さん(72歳・仮名)。現在は、月17万円の年金(基礎年金含む)を受給しながら、慎ましくも安定した一人暮らしを送っていました。息子の悟さん(43歳・仮名)から見ても、父は金銭管理に厳格で、無駄遣いとは無縁の性格。これまで金銭的に困窮している様子など微塵も見せたことはありませんでした。
異変が起きたのは、ある日、一緒にスーパーに買い物へ行ったときの会計時です。弘さんがカゴに入れたのは、値引きシールの貼られた惣菜と豆腐、一袋のパンのみ。合計額はわずか1,200円ほどでしたが、レジでカードを提示した際、店員から「こちらのカードは使えません」と告げられたのです。慌てて小銭入れを漁る弘さんの手は震えていました。
「すまない、悟……あと800円だけ、貸してくれないか。これだけでいいんだ」
周囲の客が訝しげに見守るなか、かつて威厳のあった父がレジ横で息子に縋り付く姿に、悟さんはただ驚くばかり。帰宅後、問い詰める悟さんに、弘さんは力なく通帳を差し出しました。そこには、数ヵ月前まであった300万円の貯蓄が、わずか数日間でほぼゼロになっている無残な記録が残っていました。
「パソコンに『ウイルス感染』の警告が出たんだ。画面に表示された番号に電話したら、担当者が『あなたの銀行口座も危ない、安全な場所へ移せ』と……」
弘さんは、男の指示で遠隔操作ソフトをインストールさせられ、言われるがままにネットバンキングを操作しました。自らの手で、犯人の指定する口座へ「資産保護」の名目で送金を繰り返していたのです。さらに、クレジットカード情報も抜き取られ、限度額いっぱいまでキャッシングやオンライン決済に使われていました。
「相手は非常に丁寧な口調で、私の資産を守ると説明した。だから私は、自分の意思で画面上の『振込』ボタンを何度も押したんだ。自分の貯金がなくなる操作をしているとは、まったく気づかなかった」
月17万円の年金のうち、家賃や社会保険料を差し引くと、手元に残るのは約8万円です。しかし、そこからクレジットカードの不正利用分の引き落としが始まり、再発行手数料などの事務費用も重なりました。弘さんの財布からは、次回の年金支給日まで10日以上あるにもかかわらず、すでに現金が底をついてしまっていたのです。