「親のため」を想って行った実家のリフォームが、思わぬ結果を生んでしまった――。善意が日常を崩壊させてしまったというある男性のケースから、シニア世代に必要な住環境のあり方を考えます。
「助けて、もう限界なの…」東北の実家で1人暮らしをする76歳母の悲鳴。リフォームしたばかりの快適な住まいで進む「日常崩壊」のまさかの真実 (※写真はイメージです/PIXTA)

親孝行が母の日常を崩壊させた皮肉

都内メーカーに勤務する田中和也さん(49歳・仮名)。半年前、東北の実家で一人暮らしをする母・静子さん(76歳・仮名)のために、キッチンと浴室の全面リフォームを行いました。

 

「母は指先に軽い関節炎があり、以前のガスコンロのつまみを回す動作に苦労していました。火の消し忘れも心配だったので、200万円かけて、最新のAI搭載型IHクッキングヒーターと、音声ナビ付きの給湯システムを導入したんです。これなら指の力が弱くてもボタン一つで操作でき、安全も確保できると考えました」

 

和也さんは、設置時に業者とともに操作方法を教え、静子さんもその時は「便利になった」と納得していたそうです。しかし、リフォームから1ヶ月が経過した夜、和也さんのスマートフォンに静子さんから電話が入りました。

 

「助けて、もう限界なの。お腹が空いているのに、コンロが動かない。お風呂の沸かし方も分からなくなってしまった」

 

和也さんが翌朝実家に向かうと、静子さんは台所に座り込んでいました。そこには加熱調理が必要な食材が手つかずのまま残され、代わりにコンビニで購入したパンや惣菜の空き容器が散乱していました。

 

「母の話を聞くと、IHヒーターのチャイルドロックの解除方法や、火力を調整するための液晶パネルの階層メニューが理解できなくなっていました。以前のガスコンロはつまみの向きを見れば状態が一目で分かりましたが、最新機種はすべてがデジタル表示です。母は『エラー音が鳴るたびに、自分が何か悪いことをしたのではないかと怖くなった』と漏らしました」

 

音声ナビについても、静子さんは「機械に指示されるのが苦痛で、何を言っているのか聞き取れない」と話し、最終的にはキッチンに立つこと自体を避けるようになっていました。

 

「安全を優先して多機能なものを選びましたが、結果として母は、それまで当たり前にできていた料理もできなくなってしまった。私にとっての便利が、母の生活を壊してしまったんです」