「大丈夫よ」という親の言葉を信じる子ども。離れて暮らす親の生活は、外見上は整っているように見えても、実は水面下で限界を迎えている場合があります。ある母子のケースを見ていきます。
年金15万円・ひとり暮らしの73歳母「最近、大変なの」とポツリ…心配した45歳娘が帰省するも、居間に入るなり絶句した「異様な光景」 (※写真はイメージです/PIXTA)

実家の壁際に並んでいた「同じ箱」の正体

中村彩さん(45歳・仮名)が、地方の実家へ久しぶりに帰省したのは、母・良子さん(73歳・仮名)からの何気ない電話がきっかけでした。


「なんだか最近、大変なの……」という、少し困ったような、力のない声が気になったのです。

 

良子さんは5年前に夫を亡くして以来、一軒家でひとり暮らしをしています。遺族年金と自身の老齢年金を合わせ、月々15万円ほどの収入で生活していました。「派手な贅沢はせず、身の丈に合った暮らしをしている」というのが、娘である彩さんから見た母の印象でした。

 

しかし、玄関を抜けて居間に入った瞬間、彩さんは言葉を失いました。壁際に、不自然なほど整然と積み上げられた「同じ箱」が並んでいたのです。それはすべて未開封の段ボールで、数えると30箱近くに達していました。

 

「お母さん、これ全部どうしたの?」

 

彩さんの問いに、良子さんは「ああ、それはちょっと試しているだけよ」とはにかむように答えました。中身はすべて、テレビCMや新聞広告で見かける健康食品。良子さんは「初回限定で安かったから」「体に良さそうだったから」と理由を話します。

 

良子さんの生活は、決して荒れてはいません。掃除は行き届き、食事も自炊。ご近所さんと定期的にお茶を楽しむなど、暮らしの彩りもしっかり持っている様子でした。しかし、キッチンの棚を開けると、同じメーカーの調味料や日用品がいくつも重なり、冷蔵庫の奥からは賞味期限の切れた食品が顔を出しました。

 

「いつの間にか増えちゃって……。やめ方が分からないものもあるのよ」

 

彩さんは母の承諾を得て、居間の引き出しから通帳とカード明細を取り出しました。そこに並んでいたのは、健康食品の支払いだけではありません。ブランドものの衣類、いつの間にか登録されていた動画配信サービス、使い方のわからないスマホアプリ、そして毎月届く「お楽しみ雑貨」の定期便……。一つひとつは数百円から数千円という、一見すると「ささやかな楽しみ」に見える金額です。しかし、それらをすべて合算すると、月々の支出は3万円を超えていました。

 

「そんなに払っていたの……?」

 

良子さんは明細を指で追いながら、何度もそう繰り返しました。母に浪費の自覚は微塵もありませんでした。むしろ、自分なりに「お得なもの」を選び、賢く買い物をしているつもりだったのです。